【若手の先生必見】循環器専門医の配合剤を意識した高血圧薬物療法

世の中には、非常に多くの降圧薬があります。

「種類が多すぎて何を使えばいいのか分からない・・・」

「どの薬から使えばいいの?」

そんな迷いがある方はぜひ読んでみて下さい。

高血圧の治療に慣れていないうちは、使用する薬を限定するといいと思います。種類を限定すればすぐに使い慣れて、自信も付くはずです。使用する薬は多剤併用になる可能性を見越して、事前に決めておくとスマートです。今回は、筆者オススメの薬物療法を紹介します。

※以下は筆者個人の見解です。筆者が勧める方法以外にも良い方法がたくさんあると思います。

 あくまで一例と考えてください。

目次

  • 1. 筆者オススメの治療
  • 2. なぜ配合剤を意識した薬剤選択なのか?
  • 3. そもそも高血圧症の第一選択薬は?
  • 4. 第一選択薬の中でのオススメ
  •  4-1. Ca拮抗薬
  •  4-2. アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)
  •  4-3. サイアザイド系利尿薬
  • 5. 配合剤の種類
  • 1. 筆者オススメの治療

    Ca拮抗薬はアムロジピン(血圧が160 mmHgを超えるような場合はニフェジピンCR)、ARBはテルミサルタンサイアザイド系利尿薬はヒドロクロロチアジドです。

    以下、その理由を解説します。

    2.  なぜ配合剤を意識した薬剤選択なのか?

    2019年のガイドライン改定により、降圧目標が下がりました。併存疾患のない75歳未満の場合、診察室血圧で130/80 mmHg、家庭血圧で125/75 mmHgが降圧の目標値です。2014年のガイドラインと比較して、目標値が10 mmHg低下しています。降圧目標が下がったため、多剤併用が必要な機会が今までより増しています。

    しかし、患者さんとしては「飲む薬を増やしたくない」というのが本音です。そんな方にも「合剤にすれば錠数は増えません」と説明することができます。アドヒアランスの向上にも寄与するので、合剤を意識した薬剤選択を最初から行うことをお勧めします。

    3. そもそも高血圧症の第一選択薬は?

    高血圧症の第一選択薬は4種類です。Ca拮抗薬、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、サイアザイド系利尿薬になります。

    この薬剤の中で特定の種類の降圧薬が、特に推奨されることがあります。積極的適応のある病態と推奨される薬剤は下記の通りです。

    左室肥大→Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARB

    LVEFの低下した心不全→ACE阻害薬、ARB

    頻脈→非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬

    狭心症→Ca拮抗薬

    心筋梗塞後→ACE阻害薬、ARB

    蛋白尿/微量アルブミン尿を有する慢性腎臓病(CKD)→ACE阻害薬、ARB

    ※LVEFの低下した心不全、頻脈、狭心症、心筋梗塞後にはβ遮断薬も推奨されます。

     この病態の場合、循環器を専門とする医師が対応すると思いますので、ここでは割愛します。

    もし積極的適応のある高血圧症の方に出会ったら、その薬剤を使用することを推奨します

    以下、「積極的適応のない高血圧症」の薬物治療について考えていきます。

    4. 第一選択薬の中でどの薬剤を選ぶか?

    「よく使われている薬を自分も使う」ことをオススメします。その理由は、2つあります。

    1つ目の理由は、よく使われる薬はどの医療機関・薬局でも置かれている可能性が高いからです。どのような医療機関に行ったときも、普段使用している薬が処方できる可能性が上がるはずです。

    2つ目の理由は、他人が処方した薬剤も自分が普段使用しているものである可能性が高くなるからです。そうすれば、薬剤の増量・減量も行いやすくなります。

    上記2つの理由から、「よく使われている薬を自分も使う」ことを推奨します。そのことを加味した上で、各クラスでオススメの薬剤を紹介します。

    4-1. Ca拮抗薬

    Ca拮抗薬は血管を拡張させることで血圧を下げます。他の第一選択薬と比較すると、副作用が少ない印象です。また血圧が用量依存的に下がることも特徴です。オススメの薬はアムロジピン(ノルバスク®)とニフェジピンCR(アダラートCR®)です。

    ①アムロジピン(ノルバスク®)

    アムロジピンは、Ca拮抗薬の中でも最もよく使用されています。この薬剤は、血圧を緩やかに下げてくれます。人によっては、1か月程度かけてジワジワ下がるイメージです。他剤と比較して副作用が比較的少ないので、初めてでも使いやすいかと思います。

    また、アムロジピンは合剤が多いのも特徴です。多剤併用を見据えると、1剤目として非常にいい薬だと思います。開始用量は2.5~5 mg/dayで、最大10 mg/dayまでです。

    ②ニフェジピンCR(アダラートCR®)

    ニフェジピンの徐放錠です。もともとニフェジピンは半減期の短い薬剤です。降圧効果も長く続かないため、日常的に使用する降圧薬としては不向きでした。そこでニフェジピンの徐放錠が登場しました。徐放錠には、Controlled Releaseの頭文字をとって’CR’が付いています。約24時間、降圧効果が維持できるとされます(24時間も効果が持続していないのでは?と感じる症例もたまにあります。そんな時は1日2回内服に分けると良いでしょう)。

    この薬剤の特徴は、何と言っても降圧効果が高いことです。降圧効果に関して言えば、アムロジピンより大きい印象があります。アムロジピンがゆっくり血圧を下げる一方、アダラートCRは内服後早期から血圧が低下することが期待できる「切れ味のいい薬」です。そのため、血圧がかなり高く、すぐに降圧したい場合に良い選択肢になります。

    開始用量は10~20 mg/day、最大用量は80 mg/dayです。

    4-2. アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)

    高血圧に対しては、ACE阻害薬とARBの両薬剤が第一選択薬として推奨されています。ただ高血圧に関して言えば、ARBだけ使えれば十分だと思います。ACE阻害薬は循環器領域ではARBより優先されることがあります。しかし、高血圧だけで他に循環器疾患がないならば、ACE阻害薬を積極的に使用する必要はありません。よって、ARBが使えるようになることが重要です。

    降圧については効果の大きい順に、アジルサルタン→オルメサルタン→テルミサルタン→イルベサルタン→カンデサルタン→バルサルタン→ロサルタンと言われています。降圧効果の一番強いアジルサルタン、降圧効果の一番弱いロサルタンを比べると、たしかに効果に差はあると思います。ただ順番が一つ変わっただけで降圧効果に差があるかと言われると、正直実感できないレベルだと思います。

    ARBの禁忌ですが、妊娠している女性です。また副作用ですが、腎機能低下、高K血症が多いです。よって、もともと腎機能が悪い人、血清K値が高めの人には注意して使う必要があります。

    ではどのARBが良いのでしょうか?結論から言うと、どのARBも大差ないと思いますが、個人的にはテルミサルタン(ミカルディス®)がオススメです。

    1つ目の理由は、合剤が多いことです。テルミサルタンはCa拮抗薬との合剤、サイアザイド系利尿薬との合剤があります。なんと、3剤合剤(ARB+Ca拮抗薬+サイアザイド系利尿薬)もあります。多剤併用する機会が増えている昨今の状況では、合剤が多いことはメリットです。2つ目の理由は、テルミサルタンの降圧効果が「弱くはない」ことです。高血圧の人に、あえて降圧効果が弱いARBを積極的に使用する必要はありません。3つ目の理由は、テルミサルタンは比較的よく使用されているARBだからです。

    よって、ARBならばテルミサルタンをオススメします。テルミサルタンの開始用量は20 mg/day、最大用量は80 mg/dayです。腎機能が悪い場合は、10 mg/dayから始めることも検討します。

    4-3. サイアザイド系利尿薬

    サイアザイド系利尿薬は尿中へNaの排泄を促す薬剤です。長期的には血管拡張作用もあると言われます。サイアザイド系利尿薬、トリクロルメチアジド、ヒドロクロロチアジドなどがあります。正直こちらも大差がないと思います。サイアザイド系利尿薬の中でのオススメは、合剤が多い点からヒドロクロロチアジドです。

    サイアザイド系利尿薬は、体液中のNaやKが明らかに減少している時は禁忌です。副作用としては、腎障害、低K血症、高尿酸血症、耐糖能異常などがあります。増量しても降圧効果はあまり増えない割に、副作用が出やすくなります。そのため、基本的には少量で使うことが勧められます。

    ヒドロクロロチアジドの開始用量は6.25~12.5 mg/dayで、12.5 mg/dayから増量する事はあまりしません。

    5. 配合剤の種類

    配合剤の一覧表です。第一選択薬であるCa拮抗薬、ARB、サイアザイド系利尿薬の配合剤に限定したものです。

    この一覧表を参考にしながら、薬剤の増減を行うのもひとつのやり方かと思います。

    アムロジピン+テルミサルタンならば、ミカムロAPとミカムロBPがあります。

    テルミサルタン+ヒドロクロロチアジドならば、ミコンビAPとミコンビBPがあります。

    なお、この表では抜けています(※)が、アムロジピン 5 mg+テルミサルタン80 mg+ヒドロクロロチアジド 12.5mg の3剤配合剤のミカトリオ®があります。

    スタチンなどの合剤を加味した配合剤一覧表は下記から参考にしてください。

     >>【2022年版】降圧薬配合剤の一覧表

    6. 実際の診療

    それでは、実際の診療ではどうするのか考えていきましょう。

    6-1. 家庭血圧の測定

    まずは家庭血圧をしっかりと測定してもらいましょう。できれば朝・夕を測定してもらえるととてもいいです。毎日が理想ですが、もし難しいようならば1週間分だけでも測ってもらえるといいでしょう。血圧手帳を渡しておけば、家庭血圧も把握しやすいと思います。

    6-2. 塩分制限と運動療法

    高血圧の治療、基本は塩分制限と運動療法です。塩分摂取量が多い日本人にとって減塩は難しい問題と言わざるをえません。しかし、減塩に降圧効果があることは多くの研究からも明らかになっています。

    特に血圧のコントロールが付いていない時は、しっかりと減塩や運動療法ができているか確認しましょう。塩分制限、運動療法が重要なことは、多剤併用を要する治療抵抗性高血圧でも変わりません。

    6-3. 薬物療法

    次に薬物療法について考えます。

    積極的適応のある病態と推奨される薬剤があれば、その薬剤から使用するのが良いでしょう。

    次に積極的な適応となる第一選択薬がない場合を考えましょう。

    1剤目 Ca拮抗薬(アムロジピン、アダラートCR)

    1剤目はCa拮抗薬をオススメします。その理由は大きく3つあります。

    1つ目の理由は、血圧が「スパッと下がる」ことです。1剤目の薬で十分な降圧効果が得られないと、患者さんも治療へのモチベーションがなかなか湧きにくいと思います。そのため、スパッと下がりやすいCa拮抗薬をおススメします。

    2つ目の理由は、副作用が少ないことです。最初の段階では患者さんの病態を十分に把握できていないこともあります。そのため、副作用が出るリスクが少ないCa拮抗薬を選択するのが安全です。

    3つ目の理由は、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系に影響を及ぼしにくいことです。高血圧症の原因として、原発性アルドステロン症が隠れていることがあります。スクリーニングのためには、レニン活性と血中アルドステロン濃度を測定します。このレニンとアルドステロンの値、Ca拮抗薬ではほとんど影響を受けませんが、ARBやサイアザイド系利尿薬を内服していると影響を受けます。結果の解釈が困難になるので、ARBやサイアザイド系利尿薬を他剤に変更して検査する事もあり得ます。そのため、原発性アルドステロン症のスクリーニングを終えるまではCa拮抗薬を使用しておくのが無難です。

    上記の理由により、1剤目はCa拮抗薬を使用することを推奨します。具体的にはアムロジピン2.5~5 mg/dayが良いでしょう。血圧が高い場合、特に160mmHgを超える場合はアダラートCR 20mgから開始することも検討されます(160 mmHgを超えるケースだと、アムロジピンにARB、サイアザイド系利尿薬を追加しても目標血圧に達しないことも多い印象です。最初から降圧効果の強いアダラートCRを使うことが筆者は多いです)。

    2剤目 ARB(テルミサルタン)

    1剤目のCa拮抗薬で十分に降圧できない場合は、2剤目としてARBを使用します。その理由は、サイアザイド系利尿薬よりも副作用が少ないからです。ただし、原発性アルドステロン症のスクリーニングが終了していることは確認しておきましょう。

    具体的にはテルミサルタン20 mg/dayになるかと思います。腎機能が悪い場合は、10 mg/dayから始めることも検討します。副作用の腎機能低下、高K血症には注意が必要です。ちなみにARBを増量しても、カルシウム拮抗薬の増量時よりは降圧効果が小さい印象があります。

    3剤目 サイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロチアジド)

    2剤使用しても降圧目標に達しない場合は、3剤目のサイアザイド系利尿薬の出番です。具体的にはヒドロクロロチアジド6.25~12.5 mg/dayで開始します。副作用としては、腎障害、低K血症、高尿酸血症、耐糖能異常があります。特に夏場は脱水になりやすいので注意が必要です。

    6-4. 薬剤の用量調節・追加

    高血圧の診療で一番良くないのは、血圧が急激に下がり過ぎることです。通常量でいくか、少なめの量かで迷うこともあるかと思います。その場合、特に慣れるまでは少ない用量にしておく方が無難です。

    また、単剤の用量を増やすか、2剤目を追加するか迷うこともあると思います。基本的には、少量多剤併用の方が、標準量単剤よりも血圧は下がりやすいとされます。あとは服薬のしやすさとの兼ね合いもあるかと思います。最終的には、患者さんとの相談という面もあります。

    6-5. 配合剤への切り替え

    上記の薬剤を使用していれば、配合剤に変更できる可能性があります。

    アムロジピン5mgを使用しており、テルミサルタンを使っていれば、ミカムロAPとミカムロBPがあります。

    またテルミサルタンを使用しており、ヒドロクロロチアジド12.5mgが入っているならば、ミコンビAPとミコンビBPがあります。

    なお、この表では抜けています(※)が、アムロジピン 5 mg+テルミサルタン80 mg+ヒドロクロロチアジド 12.5mg の3剤配合剤のミカトリオ®があります。

    6-6. 3剤使用しても目標血圧に達しなかったら・・・

    4剤目の検討、二次性高血圧の精査が必要になります(二次性高血圧の精査はもっと先にやっていても良いと思います)。循環器専門医、高血圧専門医に一度相談してみましょう。

    高血圧の薬物治療、積極的適応がなければ1剤目はアムロジピン(血圧が160mmHgを超えるような場合はニフェジピンCR)、2剤目はテルミサルタン、3剤目はヒドロクロロチアジド。

    ブログ著者・監修者
    • ブログ著者・監修者
    • 上原和幸(循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医)
      日本医科大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターで初期研修(内科プログラム)を行う。その後は循環器内科で勤務。現在、日本医科大学付属病院 総合診療科 助教、日本赤十字社医療センター循環器内科 非常勤医師。
      主な資格:循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医、認定内科医、臨床研修指導医、日本赤十字社認定臨床医、日本病院総合診療医学会認定医、日本旅行医学会認定医。
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