軽症~中等症ⅠのCOVID-19の薬物療法、第一選択薬は何か?
最近、軽症~中等症ⅠのCOVID-19に対して有効な薬剤がいくつか出てきています。重症化を防ぐ効果が期待できますが、第一選択薬は何でしょうか?また、第二選択薬は何でしょうか?今まで紹介した論文をもとに、軽症~中等症ⅠのCOVID-19に対する治療戦略を考えてみました。
※以下の見解は筆者の個人的な考えです。実際に使用する場合は、各自よく検討してください。
「診療の手引き・第8.0版」での推奨
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第8.0版」に掲載されている、重症度別の治療です。
軽症~中等症Ⅰでは、レムデシビル(ベクルリー®)、モルヌピラビル(ラゲブリオ®)、ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド®パック)、カシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ®)、ソトロビマブ(ゼビュディ®)が推奨されています。
しかし、使用する薬剤の順番についても記載されておらず、治療のフローチャートのようなものも存在しません。そこで筆者推奨の第一選択薬を検討しました。
オススメの治療戦略
1番目に投与すべき薬剤(第一選択薬)
ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド®パック)、またはレムデシビル(ベクルリー®)が良いでしょう。
2番目に投与すべき薬剤(第二選択薬)
2番目に投与すべき薬剤は、モルヌピラビル(ラゲブリオ®)です。
3番目に投与すべき薬剤(第三選択薬)
3番目の薬剤は、中和抗体薬と考えます。ただし、オミクロン株(BA.5系統を含む)では、中和活性が低下しており、効果が期待できない可能性があります。そのため、上記の薬剤がいずれも使用できない時のみ検討します。
以下、その理由を説明します。
軽症~中等症Ⅰの症例で有効性が示された薬剤は?
軽症~中等症Ⅰの症例での有効性が示された薬剤は、以下の通りです。
抗ウイルス薬:モルヌピラビル(ラゲブリオ®)、レムデシビル(ベクルリー®)、ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド®パック)
中和抗体薬:カシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ®)、ソトロビマブ(ゼビュディ®)
各薬剤について説明します。
中和抗体薬
カシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ®)
カシリビマブ・イムデビマブは、SARS-CoV-2のスパイク蛋白を標的とした抗体薬です。カシリビマブとイムデビマブは、それぞれスパイク蛋白の異なる部位を標的にしています。標的となる部位が変異しやすいため、抗体2種類を混合したカクテル製剤になっています。
この薬剤は、デルタ株では有効とされていました。しかし、 オミクロン株(BA.5 系統を含む) では中和活性が低下するため、 他の薬剤が使用できない時にのみ、使用を検討するよう推奨されています。
>>抗体カクテル療法のロナプリーブ®、COVID-19の重症化を防ぐ
ソトロビマブ(ゼビュディ®)
ソトロビマブは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に結合する抗体です。ソトロビマブの特徴は、標的がSARS-CoVに共通した「変異しにくい領域」であることです。そのため、カクテル製剤である必要性に乏しく、単剤になっています。
ところが、この薬剤はオミクロン株(BA.5 系統を含む)に対して中和活性が低下するという報告があります。他の薬剤が使用できない時にソトロビマブの使用を検討します。
>>ソトロビマブ(ゼビュディ®)、COVID-19の重症化を予防
抗ウイルス薬
レムデシビル(ベクルリー®)
レムデシビルは、体内で活性体になると転写・複製を担うRNA依存性RNAポリメラーゼの機能を阻害します。その結果、ウイルスの増殖を抑制する「核酸アナログ製剤」です。レムデシビルはもともとエボラ出血熱の治療薬でした。ところがCOVID-19に有効であることが分かり、流用されるようになりました。
当初は、肺炎を有するような中等症以上で有効とされました。その後、軽症例でも有効であることが明らかになっています。
モルヌピラビル(ラゲブリオ®)
モルヌピラビルは、ウイルスがRNAを複製する過程に作用する薬です。モルヌピラビルが体内で活性体になると、RNAを構成する塩基を模倣します。RNAポリメラーゼが誤って取りこむことで、RNA複製時にエラーが生じます。その結果、抗ウイルス作用を発揮する薬剤です。この薬の最大の特徴は経口薬であることです。
>>COVID-19初の経口薬モルヌピラビルが入院・死亡を減らす
ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド®パック)
ニルマトレルビルは3C様プロテアーゼ阻害剤です。3C様プロテアーゼ(別名:メインプロテアーゼ)は、SARS-CoV-2において、RNAから翻訳されたタンパク質をプロセシングする役割を担っています。このプロテアーゼを阻害することで、ウイルスの複製を抑制できます。一方のリトナビルはシトクロムP450酵素を阻害し、ニルマトレルビルの代謝を遅延させます。つまりリトナビルを併用することで、ニルマトレルビルの血中濃度を高く維持することができるわけです。
この薬剤もモルヌピラビルと同じく、経口薬になります。ただし相互作用が多く、併用禁忌薬が多いです。使用時には、注意が必要です。
>>ニルマトレルビル・リトナビル、COVID-19の重症化を予防
有効性が示された薬剤の比較
各薬剤の臨床試験の結果の比較です。
大前提として、各試験の患者背景が異なります。それぞれの試験での重症化リスクの定義も違いますし、発症からの日数も異なります。また、各試験はオミクロン株(BA.5系統)が出現していない時期に行われています。そのため、オミクロン株での有効性は不明です。オミクロン株ではカシリビマブ/イムデビマブ・ソトロビマブの中和活性も低下するとされます。
さらに全ての試験で、ワクチン未接種者が対象になっています。ほとんどの方がワクチン接種を行っている日本で、同様の効果が得られる保証はありません。
以上を考慮すると、厳密な意味での有効性の比較はできません。そのことを承知の上で、抗ウイルス薬同士、中和抗体薬同士の比較をしてみます。
中和抗体薬の比較【カシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ®) vs. ソトロビマブ(ゼビュディ®)】
選択肢としては、カシリビマブ/イムデビマブ、ソトロビマブがあります。有効率はそれぞれ約70%、85%とややソトロビマブの方が有効そうな印象です。
カシリビマブ/イムデビマブ・ソトロビマブはオミクロン株(BA.5系統を含む)では効果が落ちるとされます。そのため、現在の国内の流行状況を考えると、中和抗体薬は積極的には使用しづらいと思います。
抗ウイルス薬の比較【モルヌピラビル(ラゲブリオ®)vs. レムデシビル(ベクルリー®)vs. ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド®パック)】
選択肢としては、レムデシビル(ベクルリー®)、モルヌピラビル(ラゲブリオ®)、ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド®パック)の3種類があります。臨床試験での有効率を比較すると、それぞれ約85%、50%、90%でした。レムデシビルとニルマトレルビル/リトナビルの有効性が高く、モルヌピラビルがやや劣る印象です。
有効性を鑑みると、まず使用すべきはニルマトレルビル/リトナビル、レムデシビルとなるでしょう。両者とも使用できない時は、モルヌピラビルが選択肢になります。
ニルマトレルビル/リトナビルとレムデシビル、どちらを先に優先して使用すべきは難しい問題です。レムデシビルは中等症に悪化しても使用可能なので、温存したいところです。よって、個人的にはニルマトレルビル/リトナビルを優先して使用したいと思います。
薬剤の使用順序はどうするべきか?
COVID-19の発症には、ウイルス増殖と、宿主側の過剰な免疫反応が関与しています。軽症~中等症Ⅰの例では、まだウイルス自体の毒性が強い時期とされています。そのため、中和抗体薬、抗ウイルス薬が用いられます。理屈の上では、抗ウイルス薬・中和抗体薬は発症早期であればあるほど、有効なはずです。
以下、抗ウイルス薬同士の併用、中和抗体薬同士の併用は行わない前提で話をします。
中和抗体薬・抗ウイルス薬、どちらを先に投与すべき?
中和抗体薬と抗ウイルス薬、どちらを先に投与すべきかのエビデンスはないと思います。
しかし、現在の国内の流行状況を勘案すると、先に抗ウイルス薬を投与したほうがいいと考えています。その理由は、オミクロン株、特にBA.5系統への置き換わりが進んでいるためです。オミクロン株では、中和抗体薬の効果が低下しています。よって、抗ウイルス薬の先行投与をお勧めしたいと思います。
中和抗体薬と抗ウイルス薬を同時に投与するという意見もあるかもしれません。より有効性が増す可能性はあると思います。しかし、まだ十分なエビデンスがありません。
【結論】軽症~中等症ⅠのCOVID-19、オススメの治療方針
第一選択薬は抗ウイルス薬です。まずはニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド®パック)、またはレムデシビル(ベクルリー®)が良いでしょう。
第二選択薬はモルヌピラビル(ラゲブリオ®)です。上記2剤が使用できない時には使用が検討されます。
第三選択薬は、ソトロビマブ(ゼビュディ®)か、カシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ®)です。抗ウイルス薬の投与ができない場合に検討されます。
以上を前提に、薬剤が入手可能か否か、各薬剤の投与適応基準を満たすかを考えて、治療にあたることをお勧めします。各薬剤の投与適応基準については、次の表がよくまとまっています。