睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは

睡眠時無呼吸症候群(SAS, Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に無呼吸や低呼吸(浅い呼吸)を繰り返す病気です。無呼吸・低呼吸で目が覚めてしまい、夜中に何度も起きてしまいます。熟睡できないため、日中に強い眠気も残ります。SASの問題はそれだけではありません。高血圧、糖尿病、心不全、狭心症・心筋梗塞、脳梗塞・脳出血といった合併症を引き起こします。適切な対応をすることで、合併症が起こるリスク低減を期待できるため、早期に発見することが大切です。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の症状

SASの症状は、夜間(睡眠中)と日中(活動時)のものに分けられます。SASの最も多い症状は、睡眠中のいびきです。SASの方は、空気の通り道が塞がってしまうことが多く、いびきが生じやすくなります。「呼吸が止まっている、あえぐように苦しそうな呼吸をしている」ように見えることもあります。
他にも、窒息感とともに目が覚めてしまうこともあります。睡眠の途中で目が覚めるため、熟睡感は得られません。その結果、日中に強い眠気が襲います。また、睡眠時無呼吸症候群の方は、夜間に熟睡できず、夜中にトイレに行く回数が増えることもあります。睡眠中に十分な呼吸ができないため、体内に二酸化炭素が蓄積し、起床時に頭痛を感じることもあります。
SASが見つかるきっかけとなるのが、周囲の方から「いびきがうるさい」と指摘されることです。この指摘をきっかけに、SASが発覚することが多くあります。大きないびきをかいているご家族がいる場合は、お気軽にご相談ください。

睡眠時無呼吸症候群のよくある症状

  • 睡眠中、大きないびきをかく
  • 睡眠中、呼吸が止まっている
  • 睡眠中、あえぐような呼吸をしている
  • 睡眠中、窒息感とともに目が覚める
  • 睡眠中、異常な体動がある
  • 眠れない、熟睡感がない
  • 夜中に何度も目が覚めてしまう
  • 夜中に何度もトイレに行く
  • 起床時、口の中が乾いている
  • 起床時に頭痛が起きる
  • 日中に強い眠気を感じる
  • 日中にだるさを感じる

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断

症状から睡眠時無呼吸症候群が疑われた場合、まずは簡易型睡眠時無呼吸検査(簡易モニター)を行います。この検査は、SASか否かを判定できるスクリーニング検査です。検査は、機器を装着した状態で睡眠をとりながら行います。機器の装着は簡単であり、自宅で行うことが可能です。
簡易型睡眠時無呼吸検査を行うと、無呼吸と低呼吸の回数が分かります。ここで言う無呼吸は「10秒以上の口や鼻の気流停止」、低呼吸は「低酸素状態または覚醒を伴う、10秒以上の気流低下」のことです。1時間の睡眠中に生じた無呼吸と低呼吸の合計値は、無呼吸低呼吸指数(AHI, Apnea Hypopnea Index)と呼ばれます。
このAHIが、SASの診断で大切です。基本的に、AHIが5以上の場合にSASと診断されます。またAHIは、SASの重症度の判定にも重要です。AHIが5以上15未満の場合は軽症、15以上30未満の場合は中等症、30以上の場合は重症に分類されます。

  正常 睡眠時無呼吸症候群
軽症 中等症 重症
無呼吸低呼吸指数(AHI) AHI<5 5≦AHI<15 15≦AHI<30 30≦AHI

より正確にSASの診断をつける際、ポリソムノグラフィー(PSG)という精密検査を行うことがあります。この検査は簡易型の検査とは異なり、医療機関への入院が通常であれば必要です。しかし、当院では自宅でも検査可能な機器をご用意しております。そのため、入院の手間や入院費がかからずに検査を行えます。精密検査が必要と判断されたものの入院は避けたい方は、お気軽にお問い合わせください。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の分類(閉塞性と中枢性)

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、閉塞性と中枢性に大別されます。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、呼吸をする際の空気の通り道(気道)が一時的に閉塞することで生じる病気です。仰向けで寝ていると、重力の影響で舌が落ち込みます。それに加えて睡眠中は筋肉の緊張が緩み、さらに気道が狭くなります。

健康な人の気道
眠っているときは重力の影響で、軟口蓋、舌根、喉頭蓋が下がり、気道は狭くなります。
SAS患者さんの気道閉塞
鼻や喉に何か異常があると慢性的に気道が狭くなり、時には気道がふさがり呼吸をしにくくなります。

閉塞性SASの特徴は、気道閉塞による「いびき」がほぼ必発である点です。ほとんどのSASは閉塞性です。頻度は少ないですが、稀に中枢性SASの方もいます。中枢性SASは、脳から呼吸の命令が出ないことにより生じます。中枢性SASの主な原因は、心不全や脳梗塞・脳出血です。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の原因

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の原因のうち、最も頻度が高いのは肥満です。喉の周りに脂肪が沈着することで、気道が狭窄します。また、顎が小さい・後退していることもSASのリスクになります。舌が大きくなる甲状腺機能低下症や先端巨大症も、SASの原因です。他にもアルコールや睡眠薬は、気道の筋肉を弛緩させる作用があり、SASを悪化させます。喫煙も喉の粘膜に炎症を生じ、気道を狭窄させているかもしれません。さらに仰向けで寝ること、首を前屈させた姿勢で寝ることも、気道を狭めることでSASを悪化させます。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)を放置すると・・・

SASを放置すると、睡眠中に何度も低酸素状態になります。低酸素状態というストレスがかかることで引き起こされるのが、高血圧です。高血圧以外にも、心不全不整脈(心房細動、心室頻拍、徐脈性不整脈など)狭心症・心筋梗塞脳梗塞・脳出血のリスクが増します。さらに突然死する可能性も上昇します。これらの合併症の発生がSASを放置することの最大の問題点です。この他にも糖尿病や認知症、うつ病との関係も指摘されています。

睡眠時無呼吸症候群の治療

閉塞性SASの治療でまず大切なのが、生活習慣の改善です。自分でできるSASの治療として、減量があります。肥満になると、喉に脂肪がつきます。脂肪により気道が狭くなり、閉塞しやすくなります。逆に体重を減らすことで喉の脂肪が減り、SASも改善します。また、喉の筋肉を弛緩させる睡眠薬やアルコールは避けることが大切です。喫煙は気道の炎症を誘発し、狭めてしまいます。禁煙に努めましょう。仰向けで寝ていると、重力によって舌が落ち込み、気道を塞ぎやすくなります。気道閉塞を防ぐために、横向きで寝ることも推奨されます。生活習慣の改善は、閉塞性SASを良くするための大切な治療です。しかし、生活習慣の改善のみでは、SASを完治させることは難しいのが現実です。
SASに対して最も効果がある治療は、持続陽圧呼吸(CPAP, Continuous Positive Airway Pressure)療法です。CPAPで治療する際は、鼻や口を覆うマスクを寝る前に装着します。このマスクから持続的に空気を送ることで、気道を開通させ、閉塞しないようにします。

CPAPの原理

装着前
装着後

CPAP療法を行うと、睡眠中の無呼吸・低呼吸が減少します。その結果、熟睡感を得られるようになることが期待できます。SASによる日中の眠気があった方は、この症状も改善されるでしょう。さらに、SASの合併症が起こるリスクを低減する効果も期待できます。
保険診療でCPAPを行うには、簡易型睡眠時無呼吸検査(簡易モニター)でAHIが40以上であることが必要です。もしAHIが40を下回る場合は、精密検査であるポリソムノグラフィー(PSG)を検討します。もしポリソムノグラフィーでAHIが20以上あれば、保険診療でCPAPを使用できます。

CPAP療法

AHIが5以上、20未満だった場合、検討される治療はマウスピース(口腔内装置)です。このマウスピースは、顎を前方に突出させる役割があります。顎が前方に移動すると、気道が開通し、閉塞を防げます。マウスピースを作成する際には、歯科の受診が必要です。必要時は歯科宛ての紹介状をお渡しいたします。
気道閉塞の原因が、口蓋扁桃の肥大によるものであれば、これを摘出するのも良い治療です。また、場合によっては手術治療として、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術が施行されることもあります。ただし、SASの治療として「レーザーを用いた口蓋垂口蓋形成術(保険適応外)」を行うことは推奨されていません(睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020)。このレーザー治療はいびき治療として行われることがありますが、約40%の方でAHIがむしろ悪化することが報告されています。気道狭窄を来してしまう場合もあり、避けた方が良いでしょう。
一方、中枢性睡眠時無呼吸の患者さんは、原因となる病気の治療が優先されます。心不全を合併している際は、心不全の治療を最適化する事が大切です。治療の最適化で、睡眠時無呼吸による症状が改善する可能性があります。中枢性睡眠時無呼吸の場合には、CPAPだけではなく在宅酸素療法を検討することもあります。