狭心症

狭心症とは

狭心症

狭心症は、冠動脈(心臓に酸素を送り込む血管)が狭窄することで、胸の症状が出現する病気です。冠動脈が狭窄すると十分な酸素が送られず、心臓が酸欠状態になります。その結果、胸の症状が出る病気が狭心症です。適切な治療を行えば、この症状を緩和させることができます。また、狭心症を放置すると、心筋梗塞に至ってしまうことがあります。心筋梗塞になる前の狭心症の段階で、早期に発見し治療することが大切です。

狭心症の症状

典型的には、胸の締め付けられるような痛みや圧迫感が生じます。他にも、左肩の痛み、首の痛み、あごの痛み、息苦しさが生じる場合もあります。このような症状は一時的であり、長くても15~20分程度で治まることが狭心症の特徴です。

狭心症の症状

  • 胸の締め付けられるような痛み
  • 胸の圧迫感
  • 左肩の痛み
  • 首の痛み
  • 下顎の痛み
  • 運動時の息苦しさ

狭心症の原因

狭心症は冠動脈が狭窄することで生じます。狭窄の仕方は大きく3通りあります。1つ目は動脈硬化、2つ目が動脈硬化の破綻による血栓形成、3つ目が冠攣縮(冠動脈の痙攣性の収縮)です。

①動脈硬化による狭窄

動脈硬化による狭窄

動脈硬化とは、血管の壁にコレステロールなどが沈着し、壁が厚くなる現象です。血管の壁が厚くなることで、内腔が狭くなり、狭心症を引き起こします。動脈硬化は、以下の項目に当てはまると生じやすくなります。これらのリスクファクターを多く有する方は、動脈硬化による狭心症になる可能性も高いため、注意が必要です。

動脈硬化のリスクファクター(危険因子)

②動脈硬化の破綻に伴う血栓形成による狭窄

動脈硬化が起こると、血管の壁にプラーク(コレステロールのプール)ができます。このプラークの表面が破れてしまうと、その場所に血栓(血液の塊)が形成されます。血栓は瞬く間に大きくなるのが特徴です。この血栓により、冠動脈の内腔が急速に狭くなります。狭窄が急速に進むことを反映し、血栓形成による狭心症では症状の出現も急激です。

③冠攣縮による狭窄

冠攣縮とは、冠動脈が痙攣性に収縮する現象のことです。冠攣縮は飲酒、喫煙、ストレスによる自律神経の乱れ、過換気などにより生じます。特に、夜間や早朝の安静にしている時に起きやすいことが知られています。

狭心症の分類

①発症時期による分類:労作性狭心症と安静時狭心症

労作性狭心症は、労作時(運動している時)に胸の症状が出現する狭心症です。心臓は運動時に、より多くの酸素を必要とします。しかし、動脈硬化により冠動脈が狭窄していると十分な酸素が心臓に供給されません。その結果、心臓が酸欠状態となり、胸の痛みが出現します。逆に安静にすると、心臓の酸素の必要量が減るため、症状が軽快・消失します。
安静時狭心症は、安静にしている時に胸の症状が出現する狭心症です。安静時に症状が出現するのは、冠動脈が急激に狭窄し、心臓に十分な酸素が供給されないためです。そのため、冠攣縮または、動脈硬化の破綻による血栓形成が起きていることが疑われます。

②症状が安定しているかによる分類:安定狭心症と不安定狭心症

安定狭心症とは、症状の起きる状況、症状の強さ・持続時間に大きな変化がない狭心症です。
一方の不安定狭心症は、新たに発症したり、より軽い運動で症状が出現したり、症状の程度や持続時間が悪化したりする狭心症です。上記のようなことが概ね2か月以内に起きている場合を不安定狭心症と呼びます。このタイプの狭心症は、動脈硬化の破綻に伴う血栓形成により生じている可能性があります。そのため、急激に症状が出現・悪化しやすいことが特徴です。場合によっては、血栓が冠動脈の内腔を完全に閉塞させてしまい、心筋梗塞に至ることもあります。

狭心症の検査・診断

狭心症の診断をつけるために行われる検査としては、以下のものがあります。

  • 血液検査
  • 心電図
  • ホルター心電図
  • 心臓超音波検査
  • 冠動脈CT
  • 運動負荷心電図
  • 負荷心筋血流シンチグラフィ
  • 負荷心臓超音波検査
  • 心臓MRI
  • 心臓カテーテル検査(冠動脈造影)

血液検査は、動脈硬化の原因となる糖尿病や脂質異常症がないかを確認する目的で行います。心電図では、狭心症の時に特徴的な波形の変化が得られることがあります。心臓超音波検査では、十分な酸素が供給されていない領域の心臓の動きが悪化していないかを調べることが可能です。症状だけでは狭心症と区別するのが難しい弁膜症や心筋症も、この超音波検査で調べることができます。

①動脈硬化や血栓による冠動脈狭窄の検査と診断

動脈硬化や血栓による冠動脈狭窄は、冠動脈CTで発見可能です。冠動脈CTは、冠動脈の狭窄を99%の確率で検出できるとされています。この検査で狭窄が認められなければ、動脈硬化や血栓による狭窄は考えにくいと言えます(ただし、冠攣縮による狭窄を冠動脈CTで見つけることは困難です)。
もし冠動脈に狭窄があった場合、その狭窄により心臓が酸欠状態になっているのかを調べることもあります。検査時には、心臓の酸欠状態を再現しなければいけません。そのために運動や薬剤を使用し、心臓に負荷をかけた状態で検査を行います。具体的には、運動負荷心電図・負荷心筋血流シンチグラフィ・負荷心臓超音波検査などが負荷検査に該当します。
冠動脈をステントなどで広げる治療が検討される場合、バイパス手術が検討される場合は、冠動脈造影を含めた心臓カテーテル検査が必要です。

②冠攣縮による狭心症の検査と診断

冠攣縮性狭心症を疑うような症状があり、心電図やホルター心電図で特徴的な波形が検出された場合、冠攣縮性狭心症と診断されます。しかし症状が出ている時に、タイミング良く心電図が記録できるとは限りません。そのような場合、まずは硝酸薬を使用します。硝酸薬は、冠動脈の攣縮を強力に解除する薬です。この薬で効果があれば、以下の項目があるかを確認します。次の4項目のうち、いずれか1つでも該当すれば、冠攣縮性狭心症を疑います。

冠攣縮性狭心症を疑う状況
特に夜間から早朝にかけて、安静時に出現する
1日の中で、運動能力の著明な変動が認められる(特に早朝の運動能力の低下)
過換気により症状が誘発される
Ca 拮抗薬により発作が抑制されるがβ遮断薬では抑制されない

いずれかの項目に該当する場合は、心臓カテーテル検査における冠攣縮薬物誘発試験、過換気負荷試験を検討します。これらの検査により、確定診断をつけることが可能です。

狭心症の治療

①労作性狭心症の治療

まずは薬物療法を開始します。冠動脈での血栓形成を予防するために抗血小板薬(血液をサラサラにする薬)を使用します。労作性狭心症の主な原因は動脈硬化です。動脈硬化の改善を目指し、スタチンと呼ばれる薬剤も用います。さらに心臓の酸素必要量が増えないようにする目的でβ遮断薬やカルシウム拮抗薬という薬剤も使用されます。冠動脈の狭窄部位を広げるための血管拡張薬も治療の選択肢です。発作時に備え、即効性のあるニトログリセリンの舌下錠やスプレーを常に携帯することも重要になります。

労作性狭心症でよく使用される薬剤
  • 抗血小板薬:アスピリン(バイアスピリン®)、クロピドグレル(プラビックス®)、プラスグレル(エフィエント®)
  • β遮断薬:カルベジロール(アーチスト®)、ビソプロロール(メインテート®)
  • カルシウム拮抗薬:ジルチアゼム(ヘルベッサー®)、アムロジピン(ノルバスク®)、ベニジピン(コニール®)
  • 血管拡張薬:硝酸イソソルビド(フランドルテープ®)、一硝酸イソソルビド(アイトロール®)、ニコランジル(シグマート®)
  • スタチン:アトルバスタチン(リピトール®)、ロスバスタチン(クレストール®)、ピタバスタチン(リバロ®)
  • 硝酸薬(発作時):ニトログリセリン(ニトロペン®、ミオコールスプレー®)

冠動脈の血流を根本的に改善させるための治療としては、①経皮的冠動脈インターベンション(PCI)、②冠動脈バイパス術(CABG)があります。経皮的冠動脈インターベンションは、血管の中にカテーテルと呼ばれる細い管を入れて行う治療です。カテーテルを通して、バルーン(風船)やステント(網目状の金属の筒)で、冠動脈の狭窄部位を広げます。一方の冠動脈バイパス術は、冠動脈の狭窄部位より先の部位に血管を繋ぐことで、血流を改善させる手術です。糖尿病を合併している方や、冠動脈の多くの箇所が狭窄している方に特に効果があるとされます。
労作性狭心症の根本的な原因は動脈硬化です。動脈硬化を予防するための治療も行う必要があります。具体的には、高血圧・糖尿病・脂質異常症の治療を行います。また、喫煙されている方は、禁煙も重要です。

②不安定狭心症の治療

基本的には①の労作性狭心症の治療と同様です。ただし、心筋梗塞に至る可能性がある重症の狭心症ですので、原則、入院で治療します。また冠動脈の血流を改善させる治療を早期に行う必要があります。

③冠攣縮性狭心症の治療

冠攣縮(冠動脈の痙攣性収縮)を予防するために、血管を拡張させる薬剤を使用します。よく使われる薬剤は以下の通りです。

冠攣縮性狭心症の発作予防薬
  • カルシウム拮抗薬:ジルチアゼム(ヘルベッサー®)、ニフェジピンCR(アダラートCR®)、ベニジピン(コニール®)、アムロジピン(ノルバスク®)
  • 硝酸薬:硝酸イソソルビド(フランドルテープ®)、一硝酸イソソルビド(アイトロール®)
  • カリウムチャネル開口薬:ニコランジル(シグマート®)

冠攣縮を生じさせないためには、生活習慣の是正も必要です。禁煙やストレスの回避が望ましいです。またアルコール摂取後に発作が起きやすいことも知られています。アルコール摂取後に発作が起きるケースでは、節酒をすることも治療選択肢です。
冠攣縮性狭心症の発作時には、即効性があり冠動脈の攣縮を解除させるニトログリセリン(ニトロペン®、ミオコールスプレー®)を使用します。

心筋梗塞

心筋梗塞とは

心筋梗塞とは、冠動脈(心筋に酸素を送り込む血管)の狭窄・閉塞により心筋が酸欠状態となり、壊死してしまう病気です。狭心症では、一時的に心臓が酸欠状態になりますが、心筋は壊死しません。心筋梗塞は、心筋が壊死しまう点が狭心症と異なります。心筋梗塞は、命に関わる病気です。素早く診断し、適切な治療を行うことがとても大切です。

心筋梗塞の症状

心筋梗塞の典型的な症状は、15~20分以上持続する胸の締め付けられるような痛みや圧迫感です。狭心症と同様に、左肩の痛みや首・顎の痛みを訴える方もいます。また冷や汗、嘔吐を伴うことも特徴です。心筋梗塞は狭心症と異なり、症状の持続時間は長く、痛みの程度も強くなります。狭心症であれば有効なニトログリセリンを使用しても、症状が改善しません。ただ、高齢者の方や糖尿病を合併している患者さんは、胸の症状を感じにくいことがあり、特に注意が必要です。

心筋梗塞の原因

心筋梗塞の原因は、基本的に狭心症と同じです。心筋梗塞の場合、動脈硬化の破綻に伴う血栓形成による狭窄や閉塞の頻度が高くなります。心筋梗塞は、狭心症と比較して冠動脈の狭窄が一般的に高度です。場合によっては完全に閉塞していることもあります。稀に冠動脈の解離(血管壁が裂けること)、川崎病後遺症による冠動脈瘤なども心筋梗塞の原因になり得ます。

心筋梗塞の分類

心筋梗塞の分類は多数ありますが、最も代表的なのは心電図波形による分類です。発作時の心電図波形のST部分が持続的に上昇している場合と、そうでない場合で分類します。

ST上昇型心筋梗塞と非ST上昇型心筋梗塞

ST部分が持続的に上昇している心筋梗塞を「ST上昇型心筋梗塞(STEMI)」と呼びます。ST部分が上昇していることは、「酸欠状態になっている心筋が多く、かつ発症早期である」ことを意味しています。つまり、すぐに血流を回復させると、大きな治療効果を見込める状態です。そのため、ST部分が上昇している心筋梗塞では、できる限り早期に血流を改善させるための治療(経皮的冠動脈インターベンション:PCI)が施行されます。
一方の非ST上昇型心筋梗塞の場合は、個々のケースによって、血流を回復される治療のタイミングが決定されます。

検査について

心筋梗塞が疑われる場合、大切なのができる限り早期に心電図検査を行うことです。この心電図検査でST上昇が確認された場合、心臓カテーテル検査(冠動脈造影)を緊急で行うことを検討します。
明らかなST上昇が確認できない場合には、血液中の心筋トロポニンを測定します。心筋トロポニンとは、心筋が壊死した時、すなわち心筋梗塞の時に血液中に放出される物質です。このトロポニンを測定することで、心筋梗塞が起きているかを確認します。

心筋梗塞の治療・管理について

急性心筋梗塞であれば、速やかに狭窄・閉塞した血管を再開通させる必要があります。カテーテルを用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が行われることが大半です。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が困難な場合には、冠動脈バイパス術(CABG)が施行されることもあります。
また薬物療法も重要です。血液をサラサラにする薬(抗血小板薬)や動脈硬化を安定化させる薬(スタチン)に加えて、β遮断薬やアンギオテンシン変換酵素阻害薬も使用されます。心不全を合併している場合には、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬なども検討されます。

心筋梗塞でよく使用される薬剤

  • 抗血小板薬:アスピリン(バイアスピリン®)、クロピドグレル(プラビックス®)、プラスグレル(エフィエント®)
  • スタチン:アトルバスタチン(リピトール®)、ロスバスタチン(クレストール®)、ピタバスタチン(リバロ®)
  • β遮断薬:カルベジロール(アーチスト®)、ビソプロロール(メインテート®)
  • アンギオテンシン変換酵素阻害薬:エナラプリル(レニベース®)
  • 硝酸薬(発作時):ニトログリセリン(ニトロペン®、ミオコールスプレー®)

心筋梗塞の再発を予防するためには、日頃の生活習慣を見直すことも必要です。具体的には、禁煙や肥満の解消を目指します。さらに動脈硬化のリスクとなる病気(高血圧、糖尿病、脂質異常症)の管理も非常に重要です。他にも、感染症にかかりにくくするために、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種も推奨されます。
心筋梗塞は心臓の一部が壊死してしまう病気です。その結果、心臓のポンプ機能が低下し、心不全になりやすくなります。さらに不整脈のリスクも高まります。定期的に血液検査・レントゲン・心電図・心臓超音波検査・ホルター心電図検査などを施行し、すぐに異常に気付き、対応することが重要です。