動脈とは、血液を心臓から各臓器へと送る血管のことです。本来、動脈は柔軟性を持っており、ゴムのようにしなやかな姿をしています。しかし年をとるにつれ、このしなやかさは徐々に失われ、硬くなっていきます。これが「動脈硬化」です。
動脈硬化は、血管の壁にコレステロールが蓄積することで生じます。コレステロールが蓄積すると、動脈の壁が厚く・硬くなっていきます。動脈壁が厚くなることで、血管の内腔(血液の通る箇所)が狭くなってしまうのが、動脈硬化の最大の問題です。心臓の血管の内腔が狭くなれば狭心症、足の血管が狭くなれば閉塞性動脈硬化症になります。血管の内腔が狭くなってくると最終的には血栓(血液の塊)ができてしまい、血管を詰まらせてしまうこともあります。血管が詰まってしまった場合は一大事です。その先の臓器への血流が途絶えてしまいます。心臓の血管が詰まれば心筋梗塞、脳の血管が詰まれば脳梗塞になり、命に関わる事態になります。
動脈硬化は気づかないうちに進行し、命に関わることもある恐ろしい病気です。しかし、動脈硬化を早期に認識できれば、適切な治療で進行を抑制できます。健康な状態で長生きするために、症状のないうちから動脈硬化を発見しておくと安心です。
動脈硬化の原因には、以下のようなものがあります。
若年者より高齢者で、動脈硬化を生じている確率は高くなります。
女性よりも、男性の方が動脈硬化は起きやすいとされます。動脈硬化に予防的に働くエストロゲンというホルモンが男性に少ないことが一因と推測されています。
ご家族に動脈硬化の方がいると、その方も動脈硬化になりやすいことが知られています。遺伝的な問題や、動脈硬化を促進する生活習慣が受け継がれやすいことが原因と考えられています。
血圧が高いと血管壁に負荷がかかり、動脈硬化が進行しやすくなります。動脈硬化を予防するためには、血圧を十分に下げることが求められます。
コレステロールが高いと動脈硬化が進行しやすくなります。コレステロールの中でも、悪玉コレステロールとされる「LDLコレステロール」が動脈硬化と密接に関係しています。動脈硬化を進行させないためには、LDLコレステロールを下げることがとても重要です。
痩せている方よりも太っている方の方が、動脈硬化が生じやすくなります。減量することも大切です。
腎臓の機能が悪い方は、動脈硬化になりやすいとされます。これ以上腎臓の機能を落とさないような管理が求められます。
睡眠時無呼吸症候群では、血圧が上昇したり、糖尿病になりやすくなったりします。そのため、睡眠時無呼吸症候群の方は動脈硬化が生じやすくなります。睡眠時の無呼吸を抑える治療が、動脈硬化の予防にも有用です。
喫煙をしている方は、動脈硬化が進みやすいことが知られています。禁煙をすることが重要です。
以上の原因が積み重なると、動脈硬化は進行しやすくなります。原因のうち、加齢・性別・家族歴はコントロールできません。しかし、高血圧・脂質異常症・糖尿病・肥満・慢性腎臓病・睡眠時無呼吸症候群・喫煙はコントロール可能です。動脈硬化を進展させないためにも、コントロール可能な原因を早期に発見し、対応する必要があります。
動脈硬化を調べる検査には、頸動脈エコーと脈波検査があります。頸動脈エコーは、頸の血管の動脈硬化を超音波で見る検査です。動脈硬化が起きているのか、視覚的に分かる利点があります。脈波検査は、両腕と両足首の4ヵ所に血圧計を巻き、血圧を同時に測定する検査です。腕と足の血圧を同時に測定することで、血管の狭窄度合い(ABI)、血管の硬さ(CAVI)が確認できます。
動脈硬化は進行させないことがとても大切です。
もし動脈硬化が進行し、心臓・脳・足への血流が低下すると、カテーテル治療やバイパス手術を行う必要性が生じます。そのような治療をしなくて済むよう、コントロール可能な動脈硬化の原因を解決していくことが理想的です。
コントロールできる動脈硬化の原因には、喫煙、高血圧、脂質異常症、糖尿病があります。これらの原因は、生活習慣を是正することで改善可能です。原因を解決できれば、動脈硬化が進展するリスクが下がります。
まず、喫煙している方は、禁煙をしましょう。喫煙は、動脈硬化を確実に進展させます。禁煙することはとても重要です。食事は、血圧を上げないために塩分を少なめにすること、コレステロール値を下げるために脂っこいものを避けることが望まれます。糖尿病や肥満を解消するため、カロリー制限やバランスの良い食事を摂ることも大切です。適度な運動(ウォーキングやサイクリング、水泳などの有酸素運動)を継続的に行うことも良いでしょう。食事や運動療法で改善が困難な場合には、併行して薬物療法を行います。高血圧には降圧剤、脂質異常症にはスタチンと呼ばれる薬剤が有用です。糖尿病なら経口血糖降下薬が用いられることもあります。血圧、コレステロール値、血糖値をコントロールすることで、動脈硬化の進行を抑制できます。
心臓から送り出された血液を、全身へと運ぶ大元となる動脈を「大動脈」と言います。大動脈は、身体の中で最も太い動脈です。この大動脈が部分的に拡張し、瘤状(こぶ状)になるのが「大動脈瘤」です。大動脈瘤が破裂した場合は、即、命に関わる状態になります。突然死の原因にもなる病気です。破裂する前に見つけて、治療を開始することが大切です。
遺伝的要因や加齢が大動脈瘤の原因です。他にも、高血圧症・糖尿病・脂質異常症に起因した動脈硬化も、大動脈瘤の誘因になります。
多くの大動脈瘤の患者さんは、自覚できる症状をお持ちではありません。大動脈瘤により周囲の臓器が圧排された場合は、症状が出現することがあります。大動脈は全身に血液を運ぶ血管です。そのため、大動脈瘤による症状の出現部位は全身に及びます。
また、大動脈瘤内部では血流が滞るため血栓(血液の塊)ができやすくなります。この血栓が血管に詰まった場合は、痛みを感じることがあります。
大動脈瘤の最大の問題は、瘤が大きくなり破裂することです。破裂した場合、突然、激痛を生じます。また大量出血により血圧が急激に低下し、致死的な経過をたどります。大動脈瘤がひとたび破裂してしまうと、救命は困難です。大動脈瘤破裂による突然死は多く発生しています。破裂を予防するためには、早期に発見し治療を行うことが重要です。
大動脈瘤は、発生している部位が横隔膜より上か下かで分類されます。横隔膜より上であれば胸部大動脈瘤、横隔膜より下であれば腹部大動脈瘤と呼ばれます。大動脈瘤の約2/3は腹部大動脈瘤です。
大動脈瘤は、その形状によって、紡錘状瘤と嚢状瘤に分類されます。紡錘状瘤は、大動脈が正常の太さの1.5倍以上に全周性に拡張したものです。一方の嚢状瘤は、大動脈壁が局所的に出っ張り、瘤状になっている状態を指します。一般的に嚢状瘤の方が破裂のリスクは高く、大きさが小さくても外科的治療の対象になります。
胸部大動脈瘤は、レントゲン検査で偶然発見されることがあります。そのような場合は、CT検査で動脈瘤の位置・大きさ・形状を確認していきます。
腹部大動脈瘤の有無は、腹部超音波検査(腹部エコー)で概ね確認ができます。もし動脈瘤が発見された場合は、CT検査で部位・大きさ・形状を確認します。その結果によって、どのような治療を行うかを決定します。
大動脈瘤の破裂は、致死的です。治療の最大の目標は、大動脈瘤を破裂させないことです。
破裂のリスクは、大動脈瘤の大きさによって決まります。そのため、大動脈瘤を大きくさせないことが重要です。具体的には、禁煙や血圧の管理を行います。血圧が高く、減塩や運動療法で十分に下がらない場合には、降圧薬による治療も開始しなければいけません。また以下の場合は手術療法が検討されます。
手術療法は、大きく2つに分かれます。1つ目は人工血管置換術、2つ目はステントグラフト内挿術です。人工血管置換術は、大動脈瘤がある部位を人工血管に置き換える手術です。胸部や腹部にメスを入れる治療になります。2つ目のステントグラフト内挿入術は、血管内にカテーテルを挿入し、ステントグラフトという人工血管を挿入する治療です。大動脈瘤の部位や形状、患者さんの状態などを総合的に考慮し、どちらの手術を行うか検討します。
著者上原和幸
循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医。日本医科大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターで初期研修(内科プログラム)を行う。同院循環器内科で勤務後、日本医科大学付属病院 総合診療科 助教に着任。日本赤十字社医療センター循環器内科 非常勤医師を兼務。
主な資格
循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医、臨床研修指導医、日本赤十字社認定臨床医、日本病院総合診療医学会認定医、日本旅行医学会認定医
〒272-0021
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