不整脈

不整脈とは

心臓は、血液が戻ってくる「心房」と、血液を送り出す「心室」という箇所に分かれています。通常は、心房→心室→心房→心室と交互に一定のリズムで動いています。この一定のリズムを生み出すのが、心臓内の微弱な電流です。この微弱な電流が乱れた結果、心臓の動きが速すぎたり、遅すぎたり、不規則になったりすることがあります。このような状態を「不整脈」と言います。

不整脈の症状

  • 動悸がする(心臓の拍動が速くなる、不規則になる、強く感じる)
  • 少し動いただけでも息切れがする
  • 胸の痛み、胸の違和感
  • 失神
  • 血の気が引く感じがする
  • 目の前が暗くなる

不整脈の検査について

不整脈と診断するためには、心電図での検査が必須です。一般的な短時間での心電図検査で診断が困難な場合には、24時間ホルター心電図が行われます。不整脈により心不全を呈していないか確認するため、胸部レントゲン、血液検査、心臓超音波検査(心エコー)なども行われます。

不整脈の治療について

不整脈の原因となる病気が特定されれば、その治療が必要です。心臓の動きが遅くなる徐脈性不整脈の患者さんには、必要に応じてペースメーカーを使用します。心臓の動きが速くなる頻脈性不整脈の患者さんには薬物治療の他に、カテーテルアブレーション(カテーテルと呼ばれる細長い管を、血管・心臓に入れて行う治療)や植込み型除細動器が選択されることもあります。

不整脈の種類

通常、1分間の心拍数は60~80回程度です。心拍数が速いか、遅いかによって不整脈は2つのタイプに分けられます。心拍数が1分間に100回を超える状態を「頻脈性不整脈」と呼びます。逆に1分間に50回を下回る状態を「徐脈性不整脈」と呼びます。

頻脈性不整脈

徐脈性不整脈

①上室期外収縮(PAC)

「上室」とは、心臓の上方にある血液が戻ってくる箇所、すなわち「心房」のことを指します。この心房に、本来のリズムとは異なるタイミングで微弱な電流が生じることで起こるのが、上室期外収縮です。上室期外収縮は治療を要しないことが多いですが、自覚症状が強い場合には治療対象になることもあります。上室期外収縮の発生に寄与しているとされるのが、カフェインやアルコールです。カフェインやアルコールを過剰摂取している場合には、その習慣を改めることで、不整脈が減ることもあります。
上室期外収縮が連続していると、心房細動に移行しやすいことが知られています。上室期外収縮が連発している場合には、ホルター心電図での定期的なフォローアップをお勧めいたします。

②心房細動(AF)

心房細動のページをご参照ください。

③心房粗動(AFL)

心房粗動は、心臓は規則正しいリズムで動きますが、その動きが速くなりすぎるタイプの不整脈です。心拍数が速すぎる場合は、心拍数を遅くする薬を使います。血栓(血液の塊)ができやすい方には、血液をサラサラにする抗凝固療法を行うこともあります。カテーテルアブレーションで不整脈自体を出にくくすることも可能です。

④発作性上室頻拍(PSVT)

発作性上室頻拍は、規則正しく、速いリズムで心臓が動くタイプの不整脈です。この不整脈は息こらえを行うことで、停止することがあります。またアデノシン(アデホス®)という薬を点滴から投与すると、多くの場合で不整脈が止まります。発作の回数が多い、症状が強い場合は、日々の発作を抑えるために薬物療法を行うことも可能です。このタイプの不整脈は、カテーテルアブレーションの成功率が高いことが知られています。根治を希望される方には、カテーテルアブレーションをお勧めいたします。

⑤心室期外収縮(PVC)

心室期外収縮は、本来のリズムとは異なるタイミングで心室に微弱な電気が流れることで生じる不整脈です。この不整脈が出た時は、脈が飛んだ感覚を訴える方もいらっしゃいます。心室期外収縮は、心筋症、心筋梗塞心不全などを原因にして起こることがあります。
心室期外収縮の頻度が多い場合、連続して出ている場合などは、心臓超音波検査(心エコー)での原因検索が必要です。また、心室期外収縮の頻度が多い、症状が強い場合は薬物治療の対象になります。

心室期外収縮に対してよく使われる薬
  • β遮断薬:カルベジロール(アーチスト®)、ビソプロロール(メインテート®)

⑥心室頻拍(VT)

心室期外収縮が3連発以上続いたものが心室頻拍です。心室期外収縮と同様に、心筋症、心筋梗塞、心不全などが原因となります。そのため、心臓超音波検査(心エコー)を行うことが必要です。
心室頻拍は、非持続性心室頻拍と持続性心室頻拍に分類されます。非持続性心室頻拍は30秒以内に自然停止するものを指します。持続性心室頻拍は重症度が高く、30秒以上持続したり、血圧が低下したりする心室頻拍です。
心室頻拍により血圧が低下している場合、ただちに不整脈を止めなければいけません。不整脈を停止されるために、電気的除細動(電気ショック)を行います。危険な不整脈が出現している場合には、突然死を予防する目的で植込み型除細動器(ICD)を使用する場合もあります。

心室頻拍に対してよく使われる薬
  • β遮断薬:カルベジロール(アーチスト®)、ビソプロロール(メインテート®)
  • カルシウム拮抗薬:ジルチアゼム(ヘルベッサー®)、ベラパミル(ワソラン®)
  • カリウムチャネル遮断薬:アミオダロン(アンカロン®)

⑦心室細動(VF)

血液を送り出す心室が、無秩序な電気刺激により「小刻みに震えている状態」になった不整脈が心室細動です。血液が全く送り出せなくなるため、心臓が完全に止まった状態と同じ「心停止」に分類されます。適切な治療がなされなければ、瞬く間に死に至る最も危険な不整脈です。
心室細動になった場合、一刻も速い治療が必要になります。ただちに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始するとともに、電気的除細動(電気ショック)を行います。

⑧洞不全症候群(SSS)

心房に電気刺激を出す「洞結節」の機能が低下したことにより、心臓の動きが遅くなり、めまいや失神・心不全を生じる病気です。
洞不全症候群の原因には、薬剤、カリウム値の異常、甲状腺の異常、心筋梗塞などがあります。原因が見つかった場合は、その原因の解除を試みることが重要です。明らかな原因がない「特発性」も多く経験されます。
洞不全に起因した症状がある場合は、ペースメーカーを使用することが一般的です。また症状がない場合でも、重症度が高い場合にはペースメーカーの使用が推奨されます。

⑨房室ブロック

房室ブロックは、心房→心室への電気の流れが悪くなっている状態です。心電図波形により、1度房室ブロック、2度房室ブロック、3度房室ブロックに分類されます。2度房室ブロックは、Wenchebach型とMobitzⅡ型にさらに細分化されます。一般的に、1度房室ブロックと2度房室ブロック(Wenchebach型)は特別な治療を要しません。しかし2度房室ブロック(MobitzⅡ型)と3度房室ブロックは、原則ペースメーカーでの治療が必要です。
房室ブロックの原因には、薬剤、カリウム値の異常、甲状腺の異常、心筋梗塞などがあります。原因がある場合にはその問題を解決することで、不整脈自体が改善することが期待できます。

心房細動

心房細動とは

本来、心房内には規則的に電気が流れています。そのため、心臓の動きは規則的です。ところが心房細動では規則的な電流が、無秩序になってしまいます。結果的に、心臓の動きは不規則になります。
心房細動の問題点は合併症です。脳梗塞などの血栓塞栓症、心不全といった合併症が起こりえます。しかし、心房細動を早期に発見し適切な治療を行えば、合併症のリスクを下げることができます。

心房細動の症状

  • 動悸がする(心臓の拍動が速くなる、不規則になる)
  • 脈が不規則になる
  • 胸が痛む、胸の違和感
  • 心不全の症状

心房細動の合併症

心房細動の治療を考える上で大切なのが、合併症を予防することです。心房内の微弱な電流が無秩序になるため、心房は「小刻みに震えている状態」になります。その結果、「血栓塞栓症」や「心不全」が起きやすくなります。

血栓塞栓症

「血栓塞栓症」とは、血栓(血液の塊)が血管に詰まることです。心房細動になると、心房が小刻みに震えた状態になるため、心房内で血液が滞ります。血液が滞ると、血液の塊(血栓)ができます。この血栓が血流にのって全身の血管に詰まってしまうのが、「血栓塞栓症」です。血栓が脳の血管を詰まらせると、重篤な脳梗塞を生じます。この血栓塞栓症を予防するために、血液をサラサラにする抗凝固療法を行うことがあります。

心不全

心臓の血液を送り出すポンプ機能が低下するのが、「心不全」です。心房細動になると、心房が小刻みに震えている状態になり、心臓内の血流が悪くなります。やがて、心臓のポンプ機能が低下し、全身に血液を送ることが難しくなります。その結果、出現してくるのが「息切れ」です。さらに血液が足に溜まりやすくなり、「むくみ」も生じます。心不全になってしまった場合は、心不全に対する治療が必要です。心不全の発症を予防するために、心拍数調節療法(心拍数を下げる治療)、洞調律維持療法(心房細動自体を生じにくくする治療)を行うことがあります。

心房細動の原因

心房細動の原因としては、以下のものが挙げられます。

心房細動が見つかった場合、上記のような原因がないか検査します。もしそこで異常が見つかれば、その病気に対する治療も行います。

心房細動の検査

心房細動を疑う症状がある場合、心房細動を見つけるために、心電図・ホルター心電図を施行します。心房細動が見つかった場合、心不全の合併がないか調べるために、血液検査、レントゲン、心臓超音波検査(心エコー)なども必要です。睡眠時無呼吸症候群の有無を検査することもあります。

心房細動の分類

心房細動は、持続時間から以下のように分類されます。

  • 初発心房細動(はじめて診断された心房細動)
  • 発作性心房細動(7日以内に停止する心房細動)
  • 持続性心房細動(7日以上持続する心房細動)
  • 長期持続性心房細動(1年以上持続している心房細動。心房細動の停止を考慮しうるもの)
  • 永続性心房細動(心房細動の停止を考慮しえないもの。心房細動の停止が不可能なもの)

心房細動の治療

心房細動の治療は大きく3つに分けられます。1つ目は、血栓塞栓症(血液の塊が血管に詰まること)を防ぐために血液をサラサラにする抗凝固療法です。2つ目は、心房細動により心拍数が速くなり過ぎないようにする心拍数調節療法になります。3つ目は、心房細動自体を生じにくくする洞調律維持療法です。
心拍数調節療法や洞調律維持療法は、動悸などの自覚症状を改善する目的、心不全を予防する目的で行います。どちらの治療を行うかは、患者さんの状態によって使い分けます。

抗凝固療法(血液をサラサラにする治療)

抗凝固療法を行うべきか判断するために、血栓塞栓症が起こるリスクを予測する必要があります。以下の一項目以上に該当すれば、血栓塞栓症のリスクが高いと判断されます。その場合は、血液をサラサラにする治療(抗凝固療法)の適応です。

  • 心不全
  • 高血圧
  • 年齢75歳以上
  • 糖尿病
  • 脳梗塞、一過性脳虚血発作の既往

血液をサラサラにする薬は、以下のものがよく使用されます。

  • 直接作用型経口抗凝固薬(DOAC):リバーロキサバン(イグザレルト®)、アピキサバン(エリキュース®)、エドキサバン(リクシアナ®)
  • ビタミンK拮抗薬:ワルファリン(ワーファリン®)

心拍数調節療法(心拍数を下げる治療)

心拍数が安静時に110拍/分未満となるように、コントロールします。
心拍数を下げるために使用される薬剤としては、以下のものが代表的です。

  • β遮断薬:カルベジロール(アーチスト®)、ビソプロロール(メインテート®)
  • カルシウム拮抗薬:ジルチアゼム(ヘルベッサー®)、ベラパミル(ワソラン®)
  • ジギタリス製剤:ジゴキシン(ジゴシン®)

洞調律維持療法(心房細動自体を生じにくくする治療)

心房細動自体を生じにくくするためには、主に2つの方法があります。1つ目は薬物療法、2つ目はカテーテルアブレーションです。
 1つ目の薬物療法では、抗不整脈薬と呼ばれる薬を使用します。副作用の懸念もあるため、慎重に使用します。以下のような薬剤が使用されることが多いです。

  • ナトリウムチャネル遮断薬:ピルシカイニド(サンリズム®)
  • カリウムチャネル遮断薬:アミオダロン(アンカロン®)

2つ目のカテーテルアブレーションは、カテーテルと呼ばれる細長い管を、血管・心臓に入れて行う治療です。心房細動の起こる原因になっている左心房内の肺静脈周辺に対して治療を行います。主に、心房細動による症状がある方、抗不整脈薬による治療が効かない方が対象になります。この治療を検討する際は、近隣の病院をご紹介いたします。