糖尿病とは、血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が慢性的に高くなる病気です。通常、血糖値を下げるために、膵臓から「インスリン」と呼ばれるホルモンが分泌されています。インスリンが十分に出ていない、あるいはインスリンが効きにくくなると、血糖値が高い状態が続きます。この血糖値が高い状態が続くのが糖尿病です。糖尿病を放置すると、神経・眼・腎臓・血管など、全身に多様な合併症を生じます。糖尿病は怖い病気ですが、早期に診断し適切な治療を行うことで、合併症のリスクを下げることができます。
糖尿病の診断には、①高血糖があること、②高血糖が慢性的であること、の2点を確認する必要があります。
血糖値は食事の影響を大きく受けます。血糖値は、食事の直後に上昇し、時間が経つと低下します。そのため、どのタイミングで測定した血糖値かによって、高血糖の判定基準が変わります。診断基準で定められている血糖測定のタイミングは、空腹時、随時、75gのブドウ糖を摂取した2時間後の3つです。
空腹時血糖値とは、食事から10時間以上開けて測定した血糖値です。前日の夜から絶食とし、翌朝の食事前に測定することが一般的です。一方、随時血糖値は食事とは関係なく測定した血糖値のことを指します。75gブドウ糖の摂取2時間後の血糖値は、専用の甘い飲料を飲んだ後に測定します。
高血糖が慢性的であることの判定は、糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)、糖尿病網膜症の存在、HbA1cで行います。
この中で重要なのがHbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シーと読みます)です。HbA1cは、血液中のヘモグロビンのうち、糖が結合しているものを指します。高血糖が慢性的に持続すると、このHbA1cの割合が増加します。HbA1cは約2か月間の平均血糖値を反映する指標です。そのため、治療効果の判定にも使用されます。
糖尿病の発症には、遺伝的な要因、生活習慣が関与します。特に生活習慣の影響は大きく、過食と運動不足が誘因になります。糖尿病を発症する他の原因としては、何らかの病気による膵臓摘出、ステロイド剤の使用、Cushing症候群などがあります。
糖尿病は1型と2型に分類されます。1型糖尿病は、膵臓のインスリンを分泌する細胞が障害されることで発症します。主に若年に生じ、口渇・多飲・多尿・体重減少といった症状が急激に出現することが特徴です。インスリンが絶対的に欠乏するため、基本的にはインスリンの投与が必要になります。1型糖尿病は、糖尿病全体の中では10%以下で、頻度は高くありません。
一方、2型糖尿病はインスリンが効きにくくなるタイプの糖尿病です。糖尿病全体の90%を占めます。2型糖尿病は、主に中高年で発症します。進行は緩徐で、自覚症状があまり出ないのが特徴です。そのため、健康診断で指摘され、発覚するケースが多くあります。発症には遺伝的要素も関与しますが、生活習慣の関与が大きいとされます。過食や運動不足が、2型糖尿病発症の代表的な原因です。
糖尿病になったとしても、発症早期は多くが無症状です。しかし、糖尿病を治療せずに放置すると、様々な合併症が出現してきます。いわゆる「三大合併症」と「動脈硬化」です。三大合併症は、神経・眼(網膜)・腎臓に生じます。
最も早期に出現しやすい合併症は、神経障害です。初期症状として多いのは、足のしびれや痛み、感覚低下です。その他にも自律神経障害による起立性低血圧や勃起障害を生じることもあります。痛みの感覚も鈍くなり、足の怪我にも気付きにくくなります。足に合った靴を履く、靴に異物が入っていないかを常日頃から確認するなどの対応が必要になります。
次に出現しやすい合併症は、糖尿病網膜症です。視野に煙のすすのような黒い影が見える、小さな虫が飛んでいるように見えるといった症状が出ます。最終的には眼内で出血・網膜剥離が生じ、失明に至ることもあります。定期的に眼科を受診し、網膜症の早期発見・治療をすることが重要です。
三大合併症の中で、最後に出現するのが糖尿病腎症です。初期には微量のたんぱく尿が出るだけで自覚症状はありません。進行するとネフローゼ症候群(尿から大量のたんぱく質が出ていく病気)、最終的には腎不全に至ります。腎不全になった場合は透析治療が必要になります。進行を抑制するためには、血糖のコントロール、血圧のコントロール、食事療法が必要になります。
三大合併症には含まれませんが、糖尿病の合併症として見逃せないのが動脈硬化です。動脈硬化は心臓に酸素を供給する冠動脈にも生じます。動脈硬化により冠動脈の内腔が狭くなると、心臓が酸欠状態になります。その結果、胸が圧迫されたり、締め付けられたりする狭心症になります。さらに進行した場合には、心臓がダメージを受けてしまう心筋梗塞に至る可能性もあります。糖尿病による神経障害を合併している場合には、胸の症状を自覚できないことがあります。
つまり、自覚症状なく、心筋梗塞を起こしてしまうこともありえます。定期的に心電図検査を行い、心臓の異常に気付くことが大切です。冠動脈の他に、脳の血管でも動脈硬化は生じます。最終的に、脳梗塞や脳出血を発症し、手足の麻痺、飲み込みの問題、話しにくさなどの後遺症を残すことがあります。下肢の血管に動脈硬化が起これば、閉塞性動脈硬化症を生じます。この病気になると、歩行時に下肢の痛みを自覚することがあります。
三大合併症や動脈硬化は、緩徐に進行します。しかし、急激に生じる合併症もあります。治療中断や感染症を契機に、著明な高血糖になることがあります。その結果、高浸透圧高血糖症候群、糖尿病ケトアシドーシスと呼ばれる状態となり、意識状態が悪くなることもあります。
糖尿病を完治させることは、現時点では困難とされています。血糖値をコントロールし、合併症の発症を予防することが治療の目標です。合併症を予防するためには、ある瞬間の血糖値をコントロールするのではなく、持続的にコントロールすることが大事です。そのため、約2か月間の血糖の平均値を反映するHbA1cを治療の指標にします。
一般的には、HbA1cを7.0%未満にすることが目標です。このHbA1c 7.0%に対応する空腹時血糖値は130 mg/dL、食後2時間値は180 mg/dLとされています。
血糖値を下げる治療を強化しすぎると、低血糖のリスクが増してしまいます。低血糖は脳に後遺症を残すことがある合併症です。血糖値をコントロールしつつ、低血糖を回避する必要があります。そのため、低血糖リスクが高い場合は、目標とするHbA1cの値は高くなります。HbA1cの目標値は、年齢、日常生活の自立度、認知機能、使用している薬剤を総合的に考慮して、7.0%~8.5%未満の間で個々に検討されます。
糖尿病治療の基本は、生活習慣の改善です。日々の食事と運動を見直す必要があります。
食事は、規則的な時間にとること、栄養バランスを保ちつつエネルギーの摂取量を適正化することが大事です。炭水化物や脂質の割合を極端に変更するダイエットは、あまり推奨されません。食物繊維を多く含む野菜を食事の最初に摂取することで、食後血糖値の上昇を緩やかにできます。食事のはじめに野菜を摂取することを習慣にできると良いでしょう。
運動には、インスリンの効きを良くする効果があります。さらに食事のすぐ後に運動を行えば、食後高血糖を抑制できます。運動は、有酸素運動を中心に行いましょう。散歩、ジョギング、サイクリング、水泳などを、全力の60%くらいの力で行います。足にケガや病気がある方には、関節への負担が少ない水中運動もオススメです。
食事・運動療法を行い、肥満も解消することも大切です。食事や運動を行っても、HbA1cが目標値に達しない場合は、血糖値を下げる薬を使用します。血糖値を低下させる薬剤は、大きく以下の4つに分かれます。
ビグアナイド系、チアゾリジン系の薬剤が含まれます。特にビグアナイド系のメトホルミン(メトグルコ®)がよく使用されます。この薬剤は、体重が増加しにくく、安価であることが特徴です。メトホルミンは肥満の方で、心臓や血管の病気の発症を抑制できることが証明されています。そのため、肥満がある方に特に適した薬剤です。
チアゾリジン系の薬剤は、脂肪細胞に働きかけ、インスリンの効きを良くします。この薬剤は身体に水が溜まりやすくなる傾向があるため、心不全の方には使用できません。
スルホニル尿素薬(SU薬)、グリニド薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬が含まれます。スルホニル尿素薬(SU薬)とグリニド薬は膵臓に直接働きかけ、インスリンの分泌を促す薬剤です。低血糖のリスクがやや高くなる薬剤ですので、慎重に使用します。
DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬は、インスリンの分泌を促すホルモン(インクレチンと呼ばれます)に関連した薬剤です。低血糖を起こしにくく、体重も増加しにくいため、良く使用されています。GLP-1作動薬は、心臓や血管の病気を起こしにくくなることが大規模な研究で証明されました。ただし、投与初期には悪心や嘔吐の副作用が出やすいことが知られており、慎重に使用を開始します。
α-グルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬が分類されます。
αグルコシダーゼ阻害薬は、食物がブドウ糖まで分解される過程を抑制する薬剤です。食物よりも先に薬剤が腸管に到達する必要があり、食直前に内服しなければなりません。
SGLT2阻害薬は、尿からブドウ糖を排泄させて、血糖値を低下させる薬剤です。この薬剤はGLP-1受容体作動薬と同様に、心臓や血管の病気を起こしにくくなることが証明されました。SGLT2阻害薬はブドウ糖だけでなく水分の排泄も促すので、脱水に注意して使う必要があります。また尿路感染症や性器感染症にも注意しなければなりません。
インスリン製剤は皮下注射で使用します。1型糖尿病の患者さんは、インスリンがほとんど分泌されていません。この薬剤を用いて、血糖のコントロールをする必要があります。また2型糖尿病患者さんでも、上記の薬剤で血糖コントロールが困難な場合にはインスリン製剤の使用が検討されます。
インスリン製剤にもいくつかの分類がありますが、よく使用されるのは、超速攻型と持効型の2種類です。超速効型は、インスリン作用の持続時間が3-5時間と短いことが特徴です。食事の度に打つことで、食後のインスリン分泌の代わりになります。その結果、食後の血糖の上昇を抑えることができます。一方の持効型は、概ね24時間以上に渡り、作用が持続する薬剤です。食事とは関係のないインスリンの分泌を代用できます。
著者上原和幸
循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医。日本医科大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターで初期研修(内科プログラム)を行う。同院循環器内科で勤務後、日本医科大学付属病院 総合診療科 助教に着任。日本赤十字社医療センター循環器内科 非常勤医師を兼務。
主な資格
循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医、臨床研修指導医、日本赤十字社認定臨床医、日本病院総合診療医学会認定医、日本旅行医学会認定医
〒272-0021
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