安定冠動脈疾患への血行再建先行、心血管イベントの総数は減らせない
紹介する論文
安定冠動脈疾患では、PCIやCABGによる血行再建を内科的治療に先行させた方が予後は改善するでしょうか?この疑問に応えるべく行われた試験が、ISCHEMIA試験です。中等度から重度の心筋虚血がある患者に対して、血行再建を先行させることの意義が検証されました。そのため、初期から血行再建を行う群と、内科的治療群に分けて、比較検討されています。
一般的な臨床試験では、一度主要エンドポイントに到達したら、その患者の追跡は打ち切られます。しかしその方法だと、生涯にわたる有害事象の総数が分からなくなります。虚血性心疾患のように主要エンドポイント再発の可能性がある場合、生涯でのイベント総数は重要な情報です。
ISCHEMIA試験では、もともと再発を含めた心血管イベントの総数を評価する設計になっていました。再発を含めた心血管イベントの総数を評価した研究を紹介します。
論文の内容
Patient
負荷試験で中等度または重度の虚血が証明されている、安定冠動脈疾患の患者
Intervention(初期血行再建群)
冠動脈造影に引き続き、血行再建、至適薬物療法を行う
Comparison(保存的治療群)
至適薬物療法を行い、無効な時に初めて冠動脈造影を行う
Outcome
ランダム化された5179例で、主要エンドポイント(心血管死、心筋梗塞・不安定狭心症・心不全・心停止からの蘇生)は873件発生した。このうち670件(初期血行再建群318件、保存的治療群 352件)が初回のイベントで、203件(初期血行再建群102件、保存的治療群 101件)が再発イベントだった。
4年間の主要エンドポイントの総数は、初期血行再建群で100人当たり18.2件(95% CI, 15.8-20.9)、保存的治療群で100人当たり19.7件(95% CI, 17.5-22.2)とほぼ同等だった(差:100人当たり-1.5件(95% CI, -5.0~2.0), p=0.398)

赤線が初期侵襲的治療群、青線が保存的治療群。
考えたこと
虚血が証明された安定冠動脈疾患に対し、初期に侵襲的な血行再建を行うことで、再発を含めた主要エンドポイントの総数を減らせるかが検証されました。血行再建を先行させても、残念ながらイベント総数は有意には減らせないとの結果でした。しかし、イベントの再発は比較的稀であることも分かりました。
この再発を含めたイベント総数を比較する試み、重要だと思いました。今までは主要エンドポイントに到達するか否かしか評価されてきませんでした。しかし、実臨床では再発イベントをよく経験します。この再発イベント、患者・医療者双方にとって負担になります。その負担が、今までの臨床試験では評価されていませんでした。再発イベントを含めた総イベント数を比較する試み、とても良いと思います。ただ、イベントの総数を比較する統計学手法がまだ確立されていないようです。
今回のメインの話とはそれますが、このISCHEMIA試験、4年間の追跡では初期侵襲的治療群の優越性を証明できませんでした。ただ2年経過したところで初期侵襲的治療群が保存的治療群を逆転し、イベント発生数が低下傾向になっています。さらに5年間の追跡が行われているようなので、その結果が待ち遠しいですね。
虚血が証明された安定冠動脈疾患、血行再建を先行させても心血管イベントの総数は減らない(少なくとも4年間の観察では)