STEMIでも低リスク群なら、48時間以内に退院しても安全

紹介する論文

早期PCIと薬物治療により、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)の予後は改善しました。そのため以前よりは、早期の退院も検討できる状況になっています。早期退院は患者サイドからも歓迎されるはずですし、医療リソースを確保できる点からも良いことです。

しかし「本当に安全なのか?」という不安が、早期退院には付きまといます。致死性不整脈が発生しないかは、特に懸念される点です。低リスクなSTEMI患者を48時間以内に退院させることは安全かを検証したロンドンの研究を紹介します。

Rathod K. S, et al. Early Hospital Discharge Following PCI for Patients With STEMI. J Am Coll Cardiol. 2021;78(25):2550-60.

論文の内容

Patient

STEMI患者のうち、以下のすべてを満たすもの

  • LVEF>40%
  • Primary PCIでTIMI flow grade 3を得られた
  • 入院中に血行再建を要する病変がない
  • 虚血症状の再燃がない
  • 心不全がなく、循環動態も安定している(Killip Ⅰ)
  • 重篤な不整脈がない(VT, VF, 心拍数コントロールを要する心房粗細動)
  • 重篤な合併疾患がない
  • 早期退院に適した社会的環境であり、移動可能である

Exposure(早期退院群)

48時間以内の退院(詳細は下記図)

Comparison(48時間以降退院群)

48時間以上経過してからの退院

Outcome

早期退院群の平均年齢は59.2歳、86.0%が男性だった。

24.8%が血行再建をされた既往があり、14.8%に心筋梗塞の既往があった。

症状出現からバルーンまでの時間の中央値は80分(IQR, 30-240分)、病着からバルーンまでの時間の中央値は50分(IQR, 38-78分)だった。

48時間以降退院群は、血行再建の既往がやや少ない以外、患者背景は類似していた。

早期退院群の病院滞在時間の中央値は24.6時間(IQR, 22.7-30.0時間)で、最短17時間、最長でも40時間だった。48時間以降退院群では、病院滞在時間の中央値は56.1時間(IQR, 48-75.0時間)だった。

中央値271日間(IQR, 88-318日間)の観察期間で、早期退院群の2名(0.33%)が死亡したが、2名ともCOVID-19による死亡だった。一方、48時間以降退院群での死亡は0.7%だった。

主要心血管イベント(MACE)は、早期退院群の1.2%、48時間以降退院群の1.9%に生じた。

バイアスや共変量の影響を補正するため、propensity score matchingを用いて早期退院群と48時間以降退院群を解析した。

死亡は早期退院群の0.34%、48時間以降退院群の0.69%だった(p=0.410)。

主要心血管イベント(MACE)は、早期退院群の1.2%、48時間以降退院群の1.9%だった(p=0.342)。

A:早期退院群と48時間以降退院群での入院期間の比較
B:早期退院群と48時間以降退院群での主要心血管イベント(MACE)、死亡、主要心血管イベント+脳血管障害(MACCE)発生率の比較

考えたこと

STEMIでも低リスク群なら48時間以内に退院しても安全であることが示されました。
この結果は、退院後も専用のアプリなどを用いた慎重なフォローアップをしたことで得られています。退院後のフォローアップなしで安全に過ごせるとは言えません。その点は要注意です。
また、この研究は単施設での観察研究です。結果の解釈は慎重にする必要はありそうです。しかし、イギリスだと、STEMIは当たり前のように1週間以内に退院させるんですね・・・少しカルチャーショックを受けました。

STEMIでも低リスク群なら48時間以内に退院しても安全そう

ブログ著者・監修者
  • ブログ著者・監修者
  • 上原和幸(循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医)
    日本医科大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターで初期研修(内科プログラム)を行う。その後は循環器内科で勤務。現在、日本医科大学付属病院 総合診療科 助教、日本赤十字社医療センター循環器内科 非常勤医師。
    主な資格:循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医、認定内科医、臨床研修指導医、日本赤十字社認定臨床医、日本病院総合診療医学会認定医、日本旅行医学会認定医。
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