エゼチミブの併用、スタチン増量に予防効果は劣らず、有害事象は減る

紹介する論文

 2022年7月、動脈硬化性疾患予防ガイドラインが改訂されました。冠動脈疾患やアテローム血栓性脳梗塞の既往がある方は、LDLコレステロールを100 mg/dL未満に管理することが目標になります。付加的なリスク(急性冠症候群、家族性高コレステロール血症、糖尿病、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併)がある場合、LDLコレステロールの管理目標値は70 mg/dL未満とさらに低下します。 

 脂質異常症の管理は時代とともに厳格になってきており、必要なスタチンの用量が増えています。しかしスタチンを増量すると、筋肉痛をはじめとした副作用の出現率が増すことが懸念されます。スタチン以外にも、LDLコレステロールを低下させる薬剤として小腸コレステロールトランスポータ阻害薬であるエゼチミブ(ゼチーア®)があります。エゼチミブを併用することでLDLコレステロールをより低下させ、スタチンの副作用を軽減できる可能性があります。

 それでは、①スタチンのみを高用量で使用する、②スタチンは中等量に抑えてエゼチミブを追加する、この2つの治療はどちらが優れているでしょうか?両者を比較するためには、動脈硬化性疾患の発症予防効果、副作用の出現率などを考慮する必要があります。ところが、今までランダム化比較試験は実施されていませんでした。

 高用量スタチン単独と中等量スタチン+エゼチミブ、この2つの治療をランダム化して検証したRACING試験を紹介します。

Kim Byeong-Keuk, et al. Long-term efficacy and safety of moderate-intensity statin with ezetimibe combination therapy versus high-intensity statin monotherapy in patients with atherosclerotic cardiovascular disease (RACING): a randomised, open-label, non-inferiority trial. The Lancet. 2022

論文の内容

Patient

動脈硬化性心血管疾患(陳旧性心筋梗塞、急性冠症候群、冠血行再建の既往、動脈血行再建術の既往、脳梗塞、末梢動脈疾患のいずれか1つ以上)を合併する、韓国26病院の患者

除外基準

原因不明の肝酵素上昇(正常上限の2倍以上)、スタチンまたはエゼチミブへのアレルギー、臓器移植後、投与を中止するようなスタチンによる副作用の出現歴、妊婦・授乳婦、予測余命3年未満、1年以上のフォローアップが困難、など

Intervention(中等量スタチン+エゼチミブ群)

中等量スタチン+エゼチミブ(ロスバスタチン10mg+エゼチミブ10mg)

Comparison(高用量スタチン群)

高用量スタチン(ロスバスタチン20mg)

Outcome

患者背景

 動脈硬化性心血管疾患を合併している1894人を中等量スタチン+エゼチミブ群に、1886人を高用量スタチン群に割り付けられた。

 割り付け時、平均年齢は64歳、75%が男性、平均BMIは25 kg/㎡だった。40%に心筋梗塞の既往があり、66%が経皮的冠動脈インターベンションをされ、37%が糖尿病合併だった。また38%が高用量スタチン、36%が中等量スタチン、13%が中等量スタチン+エゼチミブを使用していた。割り付け時のLDLコレステロール値は80 mg/dLであり、70 mg/dLの目標を達成できているのは、おおよそ3人に1人だった。その他の心血管系薬剤の使用は、両群間に大きな差はなかった。最終的に3622人(95.8%)が3年間のフォローアップを完了した。

主要評価項目

主要評価項目(3年間での心血管死、冠血行再建、末梢動脈血管再建、心血管イベントによる入院、非致死性脳卒中の複合)は、中等量スタチン+エゼチミブ群で172人(9.1%)、高用量スタチン群で186人(9.9%)に発生した(絶対差:-0.78%、90%信頼区間-2.39 ~ 0.83)。主要評価項目の差の片側97.5%信頼区間の上限は1.13%であり、非劣性マージンの2.0%(95%CI -2-69 ~ 1.13)も満たした。

主要評価項目の累積発生率
赤線が中等量スタチン+エゼチミブ群、青線が高用量スタチン群

副次評価項目

3年後にLDLコレステロールが70 mg/dL未満にコントロールされている割合は、中等量スタチン+エゼチミブ群が978人(72%)、高用量スタチン群が759人(58%)だった(絶対差14.8%、95%信頼区間11.1~18.4)。70 mg/dL未満にコントロールされている割合が中等量スタチン+エゼチミブ群で高い傾向は、3年間一定していた。

有害事象

中等量スタチン+エゼチミブ群、高用量スタチン群の有害事象一覧
高用量スタチン群で筋肉痛、肝障害、CK上昇が多い

有害事象または不耐応による薬剤の中止・減量は、中等量スタチン+エゼチミブ群で88例(4.8%)、高用量スタチン群で150例(8.2%)生じた(絶対差 -3.42、95%信頼区間 -5.07~-1.80)。

考えたこと

 動脈硬化性心血管疾患合併例で、中等量スタチンとエゼチミブの併用は、高用量スタチンに予防効果は劣りませんでした。またLDLコレステロール70 mg/dL未満の達成率も高く、薬剤の中止・減量も少なくなりました。

 今回のRACING試験では、中等量スタチンとエゼチミブ併用の予防効果は、高用量スタチンに非劣性であることが示されました。Figureを見ると、エゼチミブ併用群の方がややいい成績のように見えます。しかし、優越性試験ではないので、エゼチミブ併用群の方が予防効果に優れるとはこの試験では言えません。

 また薬剤の中止・減量はエゼチミブ併用群の方が少ない結果でした。筋肉痛、肝障害、CK上昇が高用量スタチン群で多く、これらが薬剤中止・減量の原因になったと考えられます。

 このRACING試験の結果は、スタチンを中等量使用していて、これ以上の増量が困難な際のエゼチミブ併用を支持するものです。また、中等量スタチン使用例でLDLコレステロールの管理目標値を達成できていない場合、スタチン増量よりもエゼチミブ併用を検討する根拠になりそうです。

 

 現在日本では、スタチンとエゼチミブの合剤が6種類使用可能です。

アトーゼット配合錠LD(アトルバスタチン10mg+エゼチミブ10mg)

アトーゼット配合錠HD(アトルバスタチン20mg+エゼチミブ10mg)

ロスーゼット配合錠LD(ロスバスタチン2.5mg+エゼチミブ10mg)

ロスーゼット配合錠HD(ロスバスタチン5mg+エゼチミブ10mg)

リバゼブ配合錠LD(ピタバスタチン2mg+エゼチミブ10mg)

リバゼブ配合錠HD(ピタバスタチン4mg+エゼチミブ10mg)

 これら6種類の薬剤に含まれるスタチンの用量は、RACING試験で使用量と比較すると少ないと思われます。しかし錠数が減るメリットはあるため、使用を検討するのもよさそうです。

中等量スタチン+エゼチミブは、高用量スタチン単独に予防効果は劣らず、有害事象も少ない。

ブログ著者・監修者
  • ブログ著者・監修者
  • 上原和幸(循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医)
    日本医科大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターで初期研修(内科プログラム)を行う。その後は循環器内科で勤務。現在、日本医科大学付属病院 総合診療科 助教、日本赤十字社医療センター循環器内科 非常勤医師。
    主な資格:循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医、認定内科医、臨床研修指導医、日本赤十字社認定臨床医、日本病院総合診療医学会認定医、日本旅行医学会認定医。
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