ナトリウム摂取量が多く、カリウム摂取量が少ないと心血管リスク上昇

紹介する論文

ナトリウム摂取が多いと高血圧になり、心血管疾患を生じやすくなると考えられています。逆にナトリウム摂取量が少なければ、心血管イベントは減りそうです。

しかしナトリウム摂取量が少ない場合でも心血管リスクが上昇するという研究がいくつかあります。そのような研究はナトリウム摂取量をスポット尿を用いて推定しています。このスポット尿での塩分排泄量の推定が正確ではないため、誤った結論になっている可能性が指摘されています。

そこで24時間蓄尿検体を用いて、ナトリウム・カリウム排泄量と心血管イベントとの真の関係を調査した研究を紹介します。

Ma Y, et al. 24-Hour Urinary Sodium and Potassium Excretion and Cardiovascular Risk. N Engl J Med. 2022;386:252-63

論文の内容

研究対象

健康な成人10,709人を対象にした。

平均年齢は51.5歳、54.2%が女性だった。

24時間のナトリウム排泄量の中央値は3270 mgで、ナトリウムの非腎性喪失が7%あると推定すると、1日のナトリウム摂取量は3516 mg(≒塩分8.9 g相当)だった。また1日のカリウム摂取量は3292 mgと推定された。

中央値8.8年の観察期間で、571件の心血管イベント(冠血行再建、致死的・非致死的心筋梗塞、致死的・非致死的脳卒中)が生じた(発生率 1000人・年あたり5.9件)。

ナトリウム排泄量の4分位で分けて、最もナトリウム排泄量の少ない群をQuartile 1 (Q1)、最もナトリウム排泄量の多い群をQuartile 4 (Q4)とした。Model 2が全ての交絡因子で調整したもの。

ナトリウム・カリウム排泄量との関係

交絡因子を調整した解析で、ナトリウム排泄量が多く、カリウム排泄量が少なく、ナトリウム/カリウム排泄量比が高いほど、心血管イベントの増加と関連していた(いずれもp≦0.005)。

Q1をreferenceとしたQ4のハザード比は、ナトリウム排泄量で1.60 (95% CI, 1.19-2.14)、カリウム排泄量で0.69 (95% CI, 0.51-0.91)、ナトリウム/カリウム比で1.62 (95% CI, 1.25-2.10)だった。

各項目と心血管リスクとの関係。
A:24時間の尿中ナトリウム排泄量、B:24時間の尿中カリウム排泄量、C:24時間の尿中ナトリウム/カリウム。

ナトリウム排泄量が1000 mg増えるごとに、18%の心血管リスク上昇と関連していた(ハザード比, 1.18; 95% CI, 1.08-1.29)。またカリウム排泄量が1000mg増えるごとに、18%の心血管リスク低下と関連していた(ハザード比, 0.82; 95% CI, 0.72-0.94)。

考えたこと

ナトリウム摂取量が多いと、用量依存的に心血管リスクが上昇しました。また、カリウム摂取量の低さ、ナトリウム/カリウムの比率の高さも心血管リスクの上昇と関連していました。

塩分摂取量を減らし、カリウム摂取量を増やせば、心血管リスクが下がりそうです。実は、そのことはすでに検証され、証明されています。塩化カリウムが含まれた代替塩の使用により、心血管イベントが減少しました。

>>塩化カリウムが含まれた代替塩の使用、心血管イベントを減らす

日本人にとって非常に難しい問題ですが、塩分摂取量を減らすことが心血管イベント避けるために重要です。

心血管イベントを避けるためには、塩分を制限し、カリウム摂取を増やすことが重要

ブログ著者・監修者
  • ブログ著者・監修者
  • 上原和幸(循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医)
    日本医科大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターで初期研修(内科プログラム)を行う。その後は循環器内科で勤務。現在、日本医科大学付属病院 総合診療科 助教、日本赤十字社医療センター循環器内科 非常勤医師。
    主な資格:循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医、認定内科医、臨床研修指導医、日本赤十字社認定臨床医、日本病院総合診療医学会認定医、日本旅行医学会認定医。
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