敗血症性ショック、輸液量を制限しても予後は改善できない

紹介する論文

 敗血症性ショックの治療には、輸液が推奨されています。輸液を大量に行えば、循環動態は安定化するかもしれません。しかし大量の輸液は、腎障害や呼吸状態の悪化を引き起こし、死亡率を上げる可能性が指摘されています。

 敗血症性ショックでの輸液量については、質の高いエビデンスが不足しているのが現状です。ICUに入室した敗血症性ショックに、輸液量を制限することが死亡率改善につながるかを評価したCLASSIC試験が行われました。その結果を紹介します。

Meyhoff Tine S, et al. Restriction of Intravenous Fluid in ICU Patients with Septic Shock. New England Journal of Medicine. 2022

論文の内容

Patient

2018年11月27日~2021年11月16日にかけて、デンマーク・ノルウェー・スウェーデン・スイス・イタリア・チェコ・イギリス・ベルギーの31の集中治療室(ICU)に入室した、18歳以上の敗血症性ショックを対象にした。

敗血症性ショックは、感染症が確定または疑われ、血漿中の乳酸値が2 mmol/L (18 mg/dL)以上で血管収縮薬か強心薬の投与を受けており、スクリーニングから24時間以内に1リットル以上の輸液を受けている場合と定義した。

ショック発症時がスクリーニング12時間以内だった場合に、この研究に組み入れた。

Intervention(輸液量制限群)

輸液量制限群では、次の4つにいずれかに該当する場合のみ輸液を行った。

  1. 重度の灌流不全がある場合(血漿中の乳酸値が4 mmol/L (36 mg/dL)以上、血管収縮薬か強心薬を投与されていても平均動脈圧が50 mmHg、膝頭の縁を超える網様紅斑、ランダム化後2時間以内で尿量が0.1ml/kg/hr未満、のいずれかがある場合)
  2. 体液の喪失(消化管からやドレーンからの流出)がある場合
  3. 脱水または電解質欠乏を補正する場合
  4. 総水分摂取量として必要と考えられる1日1リットル(投薬や栄養を含め)に満たない場合

Comparison(標準輸液群)

標準輸液群では、次の3つのいずれかに該当する場合に輸液を行った。

  1. 輸液を行うことで、2016 Surviving Sepsis Campaign guidelineに記載されている血行動態因子に改善が見られる場合
  2. 予測あるいは観察された体液喪失分を補う、または脱水や電解質異常を補正する場合
  3. ICUが保有する維持輸液のプロトコールが存在する場合

※経腸および経口での水分摂取、経腸または非経腸での栄養、薬物の溶解液としての輸液、抗菌薬投与、感染巣への対応、ノルアドレナリンの投与、腎代替療法は両群で許可された。

Outcome

 1554人が登録され、770人が輸液量制限群、784人が標準輸液群に割り付けられた。1554人のうち1545人(99.4%)で、主要転帰(90日後の全死亡)が得られた。

 年齢の中央値は輸液量制限群で71歳、標準輸液群で70歳だった。また男性は59.9%と58.2%であった。体重の平均値は77 kgと78 kgだった。ランダム化24時間前からの輸液量の中央値は3200 mlと3000 mlだった。

 輸液量制限群・標準輸液群のそれぞれで、感染巣が消化管である割合は36.8%と38.3%、肺の割合が27.7%と26.5%、尿路の割合が15.8%と17.1%だった。

 血漿中乳酸値の最大値は中央値で、輸液量制限群が3.8 mmol/Lと標準輸液群が3.9 mmol/Lだった。ノルアドレナリンの投与の最大量の中央値は、0.25γと0.23γだった。副腎皮質ステロイドが投与されている割合は、28.6%と29.1%だった。人工呼吸器を使用していた割合は52.6%と48.6%だった。

 ICUでの累積輸液量(溶解液と栄養分を除く)の中央値は、輸液量制限群は1798 ml (IQR, 500-4366)、標準輸液群では3811 ml(IQR, 1861-6762)だった。

 主要転帰である90日後の全死亡は、輸液量制限群は764人中323人(42.3%)、標準輸液群では781人中329人(42.1%)だった(調整済み絶対差 0.1%、95%信頼区間 -4.7%~4.9%; p=0.96)。

縦軸は生存率、横軸はランダム化後の日数。
黄色が輸液量制限群、青が標準輸液群。

 また、生命維持装置なしでの生存日数、90日時点での生存退院日数は両群で同程度だった。

 ランダム化後90日の時点で、輸液量制限群では751例中221例(29.4%)、標準輸液群では772例中238例(30.8%)で1つ以上の重篤な有害事象が発生した(調整済み絶対差、-1.7%ポイント; 99%CI、-7.7~4.3)。

考えたこと

 敗血症性ショックで輸液量を制限しても、90日後の生存率は改善しないことが示されました。また生命維持装置を使用しない生存日数・生存退院日数も両群で差がありませんでした。

 輸液量を制限することでノルアドレナリンの投与量が増えるのでは?と、個人的には予想していました。しかしノルアドレナリンの投与量の中央値は、輸液量制限群・標準輸液群のそれぞれで0.25γと0.23γと大差はないようです。また輸液量を制限することで、人工呼吸器を早期に離脱できることも期待できそうと予想していました。Appendixに記載されている「人工呼吸器なしでの生存日数」の中央値は、両群とも80日でした。よって、人工呼吸器装着期間も変化がないと言えそうです。

 ランダム化前の24時間で、両群とも3000ml程度の輸液がされています。このことが両群の治療効果に差がないという結果に影響を与えたかもしれません。またeditorialでは、「標準輸液群での輸液量が過去の研究と比較して少なく、輸液量制限群との差がつかなかった可能性もあるのでは?」と指摘されています。

 いずれにせよ、今回のCLASSIC試験では輸液量を制限することで予後が改善することは示せませんでした。しかし、輸液量を制限しても有害事象は増えておらず、比較的安全に管理ができるというエビデンスにはなりそうです。

敗血症性ショック、輸液量を制限しても予後は改善できない

ブログ著者・監修者
  • ブログ著者・監修者
  • 上原和幸(循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医)
    日本医科大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターで初期研修(内科プログラム)を行う。その後は循環器内科で勤務。現在、日本医科大学付属病院 総合診療科 助教、日本赤十字社医療センター循環器内科 非常勤医師。
    主な資格:循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医、認定内科医、臨床研修指導医、日本赤十字社認定臨床医、日本病院総合診療医学会認定医、日本旅行医学会認定医。
    ※本サイトは個人で発信しているものです。所属組織の意見を代表するものではありません。