睡眠時無呼吸症候群、無呼吸・低呼吸の半減には10%以上の減量が必要そう

紹介する論文

 睡眠時無呼吸症候群(SAS, Sleep Apnea Syndrome)は中枢性と閉塞性に分類されます。中枢性は少なく、ほとんどのケースは閉塞性です。閉塞性SASの原因は多岐にわたりますが、最も多いものは肥満です。そのため、減量がSASの根本的な治療になります。実際、減量に成功すると、無呼吸・低呼吸指数(AHI, Apnea-Hypopnea Index)が改善します。

 減量に成功すれば、SASが改善することは知られていますが、どの程度減量すれば、SASの十分な改善が得られるのかは分かっていません。SASを改善できる減量の目安が分かれば、患者さんにとって良い目標値になるはずです。

 SASを改善させるために、どれくらいの減量が必要なのかを調査したMIMOSA研究の事後解析の結果を紹介します。

Georgoulis M, et al. Dose-response relationship between weight loss and improvements in obstructive sleep apnea severity after a diet/lifestyle interventions: secondary analyses of the “MIMOSA” randomized clinical trial. J Clin Sleep Med. 2022;18:1251-61.

論文の内容

研究の方法

MIMOSA研究の二次解析。

MIMOSA研究とは

Patient :ポリソムグラフィーで無呼吸低呼吸指数(AHI, apnea-hypopnea index)が15以上と診断された中等症~重症の閉塞性睡眠時無呼吸があり、BMI が25kg/m2以上ある18~65歳の患者。生活習慣が安定している(ダイエットをしていない、6か月以内に食生活や運動習慣に大きな変化がない)こと、糖尿病やがん・心血管疾患などの合併がないことが対象患者になる条件。

Intervention and Comparison: 全員に持続陽圧呼吸療法(CPAP, continuous positive airway pressure)を施行した。対象患者を、①一般的な健康に関する生活習慣のアドバイスを文章で渡される群(標準治療群)、②地中海式食生活群、③地中海式生活習慣群、の3群にランダムに割り付けた。

Outcome: 6か月後のAHIは、標準治療群で平均4.2(95%CI, 1.0, 7.4)低下した。地中海式食生活群では平均24.7(95%CI, 19.1, 30.4)、地中海式生活習慣群では平均27.3(95%CI, 20.6, 33.9)低下した。

MIMOSA研究の対象になった180人を体重減少率によって、4群に分けた。

体重変化なし、あるいは増量している(WS/CG, weight-stable/gain group)

5%未満の体重減少(<5%WLG, <5% weight loss group)

5%~10%未満の体重減少(5%-10%WLG, 5%-10% weight loss group)

10%以上の体重減少(≥10%WLG, ≥10% weight loss group)

研究の結果

対象患者

180人が二次解析の対象になった。平均年齢は49歳±10歳、75%が男性、平均BMIは35.4±5.9kg/m2、AHIの中央値は58(IQR, 30-82)だった。

WS/CGは43人(24%)、˂5%WLGは38人(21%)、5%-10%WLGは52人(29%)、≥10%WLGは47人(26%)だった。

体重変化率の中央値は、WS/CGで+1.08%(IQR, 0.22, 2.17)、5%WLGで-2.50%(IQR, -1.25, -3.74)、5%-10%WLGで-7.41%(IQR, -6.53, -8.35)、≥10%WLGで-13.0%(IQR, -5.9, -11.7)だった。

※原文ままですが、誤植だと思われます。論文中のFigure、discussionを参考にすると、’-15.9’の可能性が高そうです。

AHIの変化率

AHI変化率の中央値は、WS/CGで-0.50%、5%WLGで-11.7%、5%-10%WLGで-37.9%、≥10%WLGで-49.3%だった。

体重変化率による群分けでの、AHI変化率の中央値
≥10%WLGでも、AHI変化率の中央値は-49.3%と半減まではいかない。

重症閉塞性睡眠時無呼吸(AHI≥30)の割合

WS/CG群は6か月間で72%→74%に変化した。5%WLGでは79%→71%、5%-10%WLGでは75%→54%、≥10%WLGでは77%→40%に変化していた。

考えたこと

 5%~10%の減量でAHIは37.9%減少し、10%以上の減量では49.3%減少しました。また減量に伴い、睡眠時無呼吸症候群が重症である割合も減少していました。

 5~10%の減量でも、AHI低下効果はありそうです。また重症睡眠時無呼吸症候群からの脱却も狙えそうです。しかし理想的には、10%を超える減量が求められます。もし10%以上の減量ができれば、CPAP離脱可能なレベル(AHIが15未満、睡眠時無呼吸に起因した症状が改善し、合併症もない状態)まで到達できることもあるようです。またAHIが5未満になる、つまり睡眠時無呼吸症候群の完治が得られる、といった例もありそうです。

 本研究は減量によるAHI改善効果を見ていますが、逆に体重増加によるAHI悪化を評価した研究もあります(Peppard PE, et al. Longitudinal study of moderate weight change and sleep-disordered breathing. JAMA. 2000; 284(23):3015-21)。この研究では、5%の体重増加で15%、10%の体重増加では32%、20%の体重増加では70%もAHIが悪化すると予測されています。睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、太ることは絶対に避けなければいけません。やはり減量が推奨されます。

 減量によるAHI改善効果ですが、減量すればするほどAHIも下がるとは断言できないようです。通常の減量療法と胃の肥満手術の比較試験(Dixon JB, et al. Surgical vs conventional therapy for weight loss treatment of obstructive sleep apnea: a randomized controlled trial. JAMA. 2012;308(11):1142-9.)では、手術群では約20%の大幅な減量に成功しています。この論文には、体重変化率とAHIの変化率を示した図が掲載されています。

横軸は体重変化率、縦軸はAHIの変化率。
 白丸が通常の減量療法群、黒丸が肥満手術群を示す。

上記の図を見ると、10%程度までの減量では、急激にAHIも低下することが分かります。しかし、それ以上の減量幅になると、AHI低下効果は緩やかになるようです。

 今回紹介したMIMOSA研究の事後解析を一般化できるかという点には、注意が必要です。MIMOSA研究は、日本人ではない患者を対象にしています。またほとんどが男性で、高度の肥満があるという特徴もあります。日本における実臨床でも、減量により同様の結果が得られる保証はないということは意識しておくべきかもしれません。

AHIを半減させるためには、10%以上の減量が必要そう

ブログ著者・監修者
  • ブログ著者・監修者
  • 上原和幸(循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医)
    日本医科大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターで初期研修(内科プログラム)を行う。その後は循環器内科で勤務。現在、日本医科大学付属病院 総合診療科 助教、日本赤十字社医療センター循環器内科 非常勤医師。
    主な資格:循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医、認定内科医、臨床研修指導医、日本赤十字社認定臨床医、日本病院総合診療医学会認定医、日本旅行医学会認定医。
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