NSTEMIの除外、トロポニン測定間隔は1時間→30分に短縮可能?
紹介する論文
心筋トロポニンの測定法が発達し、高感度トロポニンという検査が登場しました。高感度トロポニンにより、心筋梗塞が安全に否定できるようになりました。
欧州心臓病学会(ESC)が推奨する心筋梗塞除外方法に、「1時間アルゴリズム」があります。ST上昇はないけれども、心筋梗塞を否定できない患者、すなわち非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)の判断に有用だとされています。このアルゴリズム、トロポニンの測定間隔は1時間です。この測定間隔をさらに短縮することは可能でしょうか?
30分間に短縮した場合のアルゴリズムの診断精度をデンマークで検証したRACING-MI試験を紹介します。
論文の内容
Patient
心筋梗塞を疑う胸痛で、救急外来を受診した患者
除外基準
18歳未満、来院時の心電図でST上昇、妊娠、透析を要する腎不全など
Intervention
高感度トロポニンIを用いた30分アルゴリズム
Comparison
高感度トロポニンIを用いた1時間アルゴリズム
Outcome
1003人が解析対象となった。年齢の中央値は64歳(IQR, 52-74歳)で、42%が女性だった。
最終診断が心筋梗塞は88人(8.8%)、不安定狭心症は95人(9.5%)だった。
500人がアルゴリズムの開発群、503人がアルゴリズムの検証群にランダムに割り付けられた。
開発群により、以下の30分アルゴリズムが作成された。

Aがアルゴリズム開発群、Bがアルゴリズム検証群
検証群で、30分アルゴリズムは242人をrule-out(除外)、207人をobservational zone(経過観察)、54人をrule-in(強く疑う)に割り振った。この結果、感度は100%(95%CI, 92.0%-100%)、陰性予測率は100%(95%CI, 98.5%-100%)、特異度は96.7%(95%CI, 94.7%-98.2%)、陽性予測率は72.2%(95%CI, 58.4%-83.5%)になった。

Aがアルゴリズム開発群、Bがアルゴリズム検証群
検証群で、1時間アルゴリズムは242人をrule-out(除外)、208人をobservational zone(経過観察)、53人をrule-in(強く疑う)に割り振った。この結果、感度は100%(95%CI, 92.0%-100%)、陰性予測率は100%(95%CI, 98.5%-100%)、特異度は97.2%(95%CI, 95.2%-98.5%)、陽性予測率は75.5%(95%CI, 61.7%-86.2%)になった。
考えたこと
30分アルゴリズムの診断精度は、1時間アルゴリズムのものと比較し、遜色ないものでした。
この30分アルゴリズム、個人的にはあまり利用価値は見出せませんでした。30分で除外できるのはいいことなのですが、1時間と30分って大差ない気がします。アルゴリズムに従うと、初回の血液検査でトロポニンが十分低値の人は、採血は1回で済みます。30分アルゴリズムだと、初回の結果が出る前に2回目の採血を行う必要があります。無駄な採血が増えそうです。
また、本研究の患者背景が、日本とは異なる可能性についても考えておくべきです。デンマークの救急体制は日本とは異なり、心筋梗塞が疑われる患者は救急車内で心電図とトロポニンの検査がされます。心電図でST上昇がある、あるいはトロポニンの異常高値が判明すれば、すぐに侵襲的な検査・治療が可能な施設に搬送されるそうです。もしそれに該当しない場合は、他の病院に搬送される流れのようです。そのため、救急車内で心電図やトロポニンの検査をしない日本とは患者背景が異なる可能性があります。
最後に、この研究は単施設で行われたものです。実用化前に、他施設での外的検証は必須と思われます。現時点で、このアルゴリズムを臨床的に使用するのは避けるべきでしょう。
30分アルゴリズムでもNSTEMIを安全に除外できるのかもしれない
(ただし、現時点では実臨床での使用は避けるべき)