PCI後2年間、ルーチンでの心筋血流シンチを含む機能検査は不要

紹介する論文

 冠動脈疾患に対して経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を行った後は、再発を予防することが重要です。薬剤を用いた二次予防の発展、および薬剤溶出性ステント(DES)の使用により、再発例は減ってきています。しかし、いまだに再発例はゼロではありません。解剖学的にリスクが高い、あるいは糖尿病合併例で再発リスクが高いことが知られています。

 冠動脈疾患の再発が心筋梗塞の発症や死亡に至ることを防ぐため、PCI後に「検査」が行われることがあります。フォローアップの検査として冠動脈造影を行う意義が以前にReACT試験で検証されました。

Shiomi H et al. The ReACT Trial: Randomized Evaluation of Routine Follow-up Coronary Angiography After Percutaneous Coronary Intervention Trial. JACC Cardiovasc Interv. 2017 Jan 23;10(2):109-117.

 その結果、ルーチンで冠動脈造影を施行しても、臨床的に重要なイベントは減らせませんでした。逆に早期の再血行再建が増える結果になりました。そのためルーチンでの冠動脈造影、ガイドラインでも行わないことを推奨しています。

 それでは、冠動脈造影よりも侵襲度が少ない機能検査の場合はどうでしょうか?機能検査を用いたフォローアップは、日常的によく行われています。ところが、PCI後にルーチンで行われる機能検査のエビデンスは限定的です。機能検査により臨床的な利益が得られるだろう再発リスクが高い集団を対象にPOST-PCI試験が行われました。今回はその結果を紹介します。

Park D-W, et al. Routine Functional Testing or Standard Care in High-Risk Patients after PCI. New England Journal of Medicine. 2022.

論文の内容

Patient

韓国の11病院でPCIを行った(※)、解剖学的・臨床的に再発リスクが高い(*)19歳以上の患者。

※ PCIは、薬剤溶出性ステント(DES)、生体吸収性スキャフォールドを用いて行う。

  ただし、ステント内再狭窄に対しては薬剤コーティングバルーンの使用も可。

*「解剖学的・臨床的に再発リスクが高い」とは、虚血や血栓症のリスクが増す解剖学的リスク、あるいは、臨床的リスクのうちいずれか一つ以上当てはまる場合を指す。解剖学的リスクとは、左冠動脈主幹部、分岐部病変、入口部病変、慢性完全閉塞、多枝病変、再狭窄病変、冠動脈病変が長い(病変長> 30 mm、あるいは必要なステント長> 32 mm)、バイパスグラフトの病変のいずれか。臨床的リスクは、治療を要する糖尿病、慢性腎不全(血清クレアチニン2.0mg/dL以上、あるいは維持透析)、心筋逸脱酵素の上昇した急性冠症候群のいずれか。

Intervention(機能検査群)

ランダム化12か月(±2か月)後、心臓負荷検査(運動負荷心電図、核医学検査、負荷心臓超音波検査)をルーチンで行う。

※ 運動負荷心電図単独では偽陽性が多いため、検査を組み合わせることが推奨された。

Comparison(標準診療群)

※ 臨床的に必要性が生じたときのみ、心臓負荷検査を行う。機能検査群・標準診療群ともに、ランダム化6、12、18、24か月後にフォローアップされた。この間、ガイドラインに沿った薬物治療が推奨された。

Outcome

患者背景

 2017年11月15日から2019年9月11日までに、1706人がランダム化された。機能検査群には849人、標準診療群には857人が割り付けられた。

 ベースラインでの特徴は、2群間でバランスが取れていた。平均年齢は64.7歳で79.5%が男性だった。21.0%が左冠動脈主幹部、43.5%が分岐部病変、69.8%が多枝病変、70.1%がびまん性の長い病変、38.7%が糖尿病、19.4%が心筋逸脱酵素の上昇した急性冠症候群だった。96.4%の患者が薬剤溶出性ステント(DES)で治療されていた。一人当たり、平均2本のステントが使用され、平均のステント長は57mmだった。FFRは35.7%で測定され、血管内イメージングは74.4%で使用されていた。

 機能検査群に割り振られた患者のうち、92.5%が12か月後に機能検査を行っていた。一方の標準診療群では、9.0%が臨床的な必要性があり機能検査が行われていた。

主要転帰

 主要複合転帰(全死因死亡、心筋梗塞、不安定狭心症による入院の複合)は、2年間で機能検査群849人中46人(カプランマイヤー推定値 5.5%)、標準診療群857人中51人(カプランマイヤー推定値 6.0%)に生じた(ハザード比 0.90, 95%信頼区間 0.61-1.35, P=0.62)。

 全死因死亡、心筋梗塞、不安定狭心症による入院の各項目でも差はなかった。

副次転帰

2年間で侵襲的な冠動脈造影を施行されたのは、機能検査群の12.3%、標準診療群の9.3%だった(差 2.99%、95%信頼区間-0.01~5.99)。再血行再建が行われたのは、機能検査群の8.1%、標準診療群の5.8%だった(差 2.23%、95%信頼区間-0.22~4.68)。

主要転帰と副次転帰。
主要複合転帰は有意な差はなく、主要転帰の各項目でも有意な差はなかった。

考えたこと

 PCI を受けた解剖学的・臨床的に高リスクな患者において、ルーチンの機能検査を行っても、標準診療と比較して、2年後の死亡・心筋梗塞・不安定狭心症による入院という主要複合転帰は減りませんでした。

 PCI後にルーチンでの機能検査を行うことで、1年後の再冠動脈造影・再血行再建をやや増えているように見えます。侵襲的な処置が多少増えても、臨床的に重要なイベントを減らすまでの効果はなかったと解釈できそうです。この試験は解剖学的・臨床的にイベントを起こすリスクが高い集団を対象に行われています。そのため低リスク群でのルーチンでの機能検査は、なおのこと不要と言えます。

 ただこの試験、イベント発生率が少ないため、有意な差が出なかったのかもしれません。ガイドラインに準拠した至適薬物療法が奏功していた可能性があります。薬物療法の重要性を示唆する結果とも言えます。

 今回の結果からは、PCI後 2年以内のルーチンでの機能検査は推奨できません。実際、ガイドライン上でも、「PCI後 2年以内のルーチンでの心筋血流シンチ」はClassⅢです。しかし、「PCI後5年以降」についてはClass Ⅱbになっています。2年を超える長期のフォローアップはどうすべきかという点については、まだエビデンスが不足しているようです。

PCI後2年間、ルーチンでの心筋血流シンチを含む機能検査は不要

ブログ著者・監修者
  • ブログ著者・監修者
  • 上原和幸(循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医)
    日本医科大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターで初期研修(内科プログラム)を行う。その後は循環器内科で勤務。現在、日本医科大学付属病院 総合診療科 助教、日本赤十字社医療センター循環器内科 非常勤医師。
    主な資格:循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医、認定内科医、臨床研修指導医、日本赤十字社認定臨床医、日本病院総合診療医学会認定医、日本旅行医学会認定医。
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