虚血性心筋症、PCIを追加しても心不全イベントは減らせない
紹介する論文
左室駆出率(LVEF)が低下した心不全、この原因として世界的に最も多いものは冠動脈疾患です。虚血による障害を受け、収縮能が低下した心筋は「冬眠心筋」と呼ばれます。この冬眠心筋にはバイアビリティが残されており、血流が改善すれば収縮能も回復するとされています。また、低心機能患者では致死性不整脈の出現が多いこともあり、血行再建には不整脈発生を予防する効果も期待できます。そのため、虚血性心筋症に対しては冠血行再建が行われることが一般的です。
虚血性心筋症に対する血行再建については、冠動脈バイパス術の効果がSTICH試験で検証されています。このSTICH試験では、主要評価項目である5年後の主要評価項目は冠動脈バイパス術を行った群と、薬物療法単独群で差はありませんでした。
冠動脈バイパス術群では周術期の死亡リスクが高く、5年間の観察では差がつかなかった可能性が指摘されています。10年間の追跡では、冠動脈バイパス術の全死亡が少ないことも判明しています。冠動脈バイパス術のメリットが10年後に顕在化してきたとも解釈可能です。
それでは経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は虚血性心筋症に対して有効なのでしょうか?PCIならば周術期の死亡リスクは少なく、より早期から予後を改善させる可能性があります。虚血性左室機能不全には、至適薬物療法(OMT)に加えてPCIを施行すべきか否かが今回検証されました。ESC 2022で結果が発表された、REVIVED-BCIS2試験を紹介します。
論文の内容
Patient
バイアビリティが証明された4つ以上の心筋セグメントへのPCIが可能な、広範な冠動脈病変を有するLVEF 35%以下の患者
除外基準
18歳未満、4週間以内の心筋梗塞、72時間以内の強心薬・人工呼吸器サポートを要する急性非代償性心不全、72時間以内の持続性心室頻拍・心室細動・ICD適切作動、介入を要する弁膜症、PCI禁忌、eGFR<25ml/min/1.73m2(ただし、透析例を除く)、妊婦、非心原性疾患により期待できる生命予後が1年以内など
Intervention(PCI群)
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)+至適薬物療法(OMT)
Comparison(OMT群)
至適薬物療法(OMT)
※PCI群、OMT群ともに植込み型除細動器(ICD)と心臓再同期療法(CRT)は担当医の判断に委ねられた。
Outcome
2013年8月~2020年3月、イギリスの40病院で700人にランダム化が行われた。347人がPCI群に、353人がOMT群に割り付けられた。観察期間の中央値は41か月間だった。PCI群では、PCIが334人(96.3%)で行われた。PCIが行われたタイミングは、ランダム化か中央値35日だった。
平均年齢はPCI群が70.0歳、OMT群が68.8歳だった。男性がPCI群の302人(87%)、OMT群の312人(88%)だった。白人がPCI群の306人(88%)、OMT群の328人(93%)と多く、アジア人は32人(9%)、OMT群の17人(5%)と少なかった。Body Mass Indexの平均値はPCI群で28.4%、OMT群で28.7%だった。過去に心筋梗塞を起こしたことがあるのは、PCI群の175人(50%)、OMT群の197人(56%)だった。
NYHA Ⅰ・Ⅱは、PCI群の77%、OMT群の71%だった。またNYHA Ⅲ・ⅣはPCI群の23%、OMT群の29%だった。LVEFはPCI群で27.0%±6.6%、OMT群の27.0%±6.9%だった。NT-proBNPの中央値はPCI群で1376 pg/ml、OMT群で1461 pg/mlだった。
冠動脈病変が左冠動脈主幹部の割合は、PCI群の14%、OMT群の13%だった。3枝病変はPCI群の38%、OMT群の42%だった。2枝病変はPCI群の51%、OMT群の47%だった。
主要評価項目
主要評価項目である全死亡と心不全入院の合計は、PCI群で129人(37.2%)、OMT群で134人(38.0%)だった(ハザード比0.99; 95%信頼区間 0.78-1.27, P=0.96)。

黄線がPCI群、青線がOMT(至適薬物療法)群。
副次評価項目
全死亡は、PCI群で110人(31.7%)、OMT群で115人(32.6%)で生じた(ハザード比0.98; 95%信頼区間 0.75-1.27)。心不全入院はPCI群で51人(14.7%)、OMT群で54人(15.3%)で生じた(ハザード比0.97; 95%信頼区間 0.66-1.43)。
左室駆出率(LVEF)はPCI群の6ヵ月後は+1.8%、12か月後は+2.0%だった。OMT群では6か月後は+3.4%、12か月後は+1.1%だった。両群間のLVEFの差は、6か月後で-1.6%(95%信頼区間:-3.7~0.5%)、12か月後で0.9%(95%信頼区間:-1.7~3.4%)だった。
予定外の血行再建はPCI群で10人(2.9%)だったのに対し、OMT群は37人(10.5%)と多かった。
大出血はOMT群で2人(0.6%)、PCI群は10人(3.1%)とPCI群で多い結果だった。
急性心筋梗塞の発症は、PCI群で37人(10.7%)、OMT群は38人(10.8%)とほぼ同様だった。ただし、PCI群では周術期の急性心筋梗塞が37.8%を占めており、自然発生の心筋梗塞は48.7%とOMT群の86.8%と比較して少なかった。
心不全デバイスの植え込みは、250人(PCI群の126人、OMT群の124人)に行われた。心室頻拍や心室細動に対するICD作動は、24か月間でPCI群の6人(5.9%)、OMT群の13人(14.0%)で起きた。
QOLスコアは6か月後、12か月後はPCI群がやや良好なように見えるが、その差は24か月後には消失した。

黄色線がPCI群、青線がOMT(至適薬物療法)群。

黄色線がPCI群、青線がOMT(至適薬物療法)群。
考えたこと
OMTを行っている虚血性左室機能不全にPCIを追加しても、心不全イベントを減らせませんでした。またLVEFも改善しませんでした。虚血性心筋症に対して一般的に行われているPCIに対し、警鐘を鳴らす結果です。心不全イベントだけではなく、LVEFすら改善しなかったというのは衝撃的でした。
今回、PCIを追加しても差が出なかった理由として、以下の3つの可能性が考えられます。
- 対象としていた患者が、虚血により左室機能不全を有していたわけではなかった(別の心筋症+冠動脈疾患の合併例が多く含まれていた)。
- PCI自体に虚血性心筋症の左室機能を改善させる効果がない。
- 虚血性心筋症へのOMT(ICD、CRT含む)の治療効果が強く、PCIの上積み効果が得られない。
理論上は、バイアビリティのある冬眠心筋に血行再建を行えば、心機能は改善するはずです。そのため、③の可能性が高そうな気がしています。OMTの重要性をより一層強調する研究と言えるかもしれません。
今回のREVIVED-BCIS2試験のフォローアップ期間の中央値は41か月間です。さらに長期のフォローアップを行えば、STICH試験の冠動脈バイパス術と同様、PCIの効果が出てくる可能性は否定できません。しかしREVIVED-BCIS2試験の結果からは、「虚血性心筋症に盲目的なPCIを行うことは控えるべき」とは言えそうです。特に、他疾患により生命予後が期待できない虚血性心筋症の方には、PCIは控えるべきでなのでしょうか。
昨今の研究は、PCIに対して逆風が吹く結果が多くなってきています。
>>安定冠動脈疾患への血行再建先行、心血管イベントの総数は減らせない
LVEF 35%以下の虚血性心筋症、ICD・CRTを含む至適薬物療法を行っていれば、PCIを行ってもLVEFは改善せず心不全イベントも減らせない。