心停止の救急要請時、蘇生目的にボランティアを動員すると生存率改善

紹介する論文

自宅で発生した心停止は、公共の場所で発生するよりも予後が悪いとされます。その理由として、心停止の瞬間が目撃されにくいこと、バイスタンダーによる心肺蘇生が行われにくいこと、心停止前の状態が悪いことが挙げられています。その結果、心室細動などのショック適応リズムではなくなり、蘇生が難しくなるとされます。

しかし、院外心停止の約70%は自宅で発生します。この自宅で発生した心停止の予後を改善するために、オランダで蘇生のためのボランティアを募集する試験が行われました。心停止の救急要請が入ったら、司令官が患者付近のボランティアに出動を要請します。そして胸骨圧迫や除細動を早期に行ってもらうという試みです。この試みで予後を改善できるか検証した研究を紹介します。

Stieglis R, et al. Alert system-supported lay defibrillation and basic life-support for cardiac arrest at home. Eur Heart J. 2021

論文の内容

方法

心停止が疑わる救急通報があると、司令官はコンピューターアルゴリズムを起動させた。そして現場から直径1000mの範囲内にいるだろうボランティアにテキストメッセージを送信した。最大30人のボランティアにテキストメッセージが送信された。ボランティアの3分の2にはAEDを最初に確保することを、残りの3分の1には現場に直行し心肺蘇生を開始するよう指示した。

結果

テキストメッセージを受け取ったボランティアによる除細動は、システム導入後に16%で行われた。システム導入により、最初の除細動が救急隊によって行われる確率は73%→39%に低下した。また救急隊到着前に心肺蘇生が行われていない確率は、22%→9%に低下した(調整後相対リスク: 0.5, 95% CI:0.3-0.7)。

主要評価項目

自宅での心停止の生存退院が26%→39%に増加した(調整後相対リスク: 1.5, 95% CI: 1.03-2.0)。

副次評価項目

神経学的予後が良好な状態での生存は24%→36%に変化した(調整後相対リスク: 1.4, 95% CI: 0.99-2.0)。

自宅での初期波形がショック適応リズムだった患者の主要評価項目と副次評価項目の結果

考えたこと

自宅で発生した心停止、付近のボランティアに蘇生処置を依頼することが、生存退院と関連していることが分かりました。

予後が悪い自宅での心停止を改善させる試み、非常に面白いと思いました。以前に紹介した駅での心停止とは状況が異なり、自宅での心停止はかなり条件が悪いです。条件が悪い心停止でも、工夫次第で予後を改善できるという試みを紹介しました。

ただ、実際にこのシステムを導入するには、かなりの手間がかかりそうです。まずはボランティアを募集する必要があります。また、救急要請後すぐにテキストメッセージを送るシステムを開発しなくてはいけません。さらに、AEDの設置場所も把握する必要があります。この研究でも行われたようですが、AEDを所有する人は、建物の外にAEDを設置するよう求められたようです。この試みを実際に行うには、様々な社会的準備が必要そうです。

またオランダでは同時期より、心停止が疑われる救急要請の場合には、AEDを持った警察官も現場に出動するようになったそうです。院外心停止に対して、オランダは革新的なことをやっていると感じました。

ボランティアが蘇生に参加することで、自宅での心停止の生存率が改善する

ブログ著者・監修者
  • ブログ著者・監修者
  • 上原和幸(循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医)
    日本医科大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターで初期研修(内科プログラム)を行う。その後は循環器内科で勤務。現在、日本医科大学付属病院 総合診療科 助教、日本赤十字社医療センター循環器内科 非常勤医師。
    主な資格:循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医、認定内科医、臨床研修指導医、日本赤十字社認定臨床医、日本病院総合診療医学会認定医、日本旅行医学会認定医。
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