低体温療法、脳障害の重症度によっては平温療法よりも優れる可能性

紹介する論文

心停止の蘇生後、問題になるのが低酸素脳症です。神経学的後遺症を残すことも多くあります。その後遺症を軽減させるための治療、それが体温管理療法です。体温管理療法は、低体温療法と平温療法に大きく分けられます。

一般的に低体温療法では電解質異常、凝固異常、耐糖能異常、不整脈、血圧低下、易感染性、シバリングなどのリスクが上がります。そのため低体温療法をするのであれば、平温療法よりもメリットがあって欲しいわけです。ところが、平温療法と比較し低体温療法が有効なのかは、いまだに賛否両論です。最近ではTTM-2試験で、低体温療法と平温療法の有効性が比較検討されました。その結果、低体温療法は平温療法と比較して有効性を示せませんでした。

 >>心停止蘇生後の体温管理療法、低体温療法でなくても平温療法で十分

国際的なガイドラインは「低体温療法が特定の患者集団に有効かは不明である」としています。そこで、今回は低酸素脳症の程度を脳波で層別化し、低体温療法が有効な集団があるかを探った観察研究を紹介します。

Nutma Sjoukje, et al. Effects of targeted temperature management at 33°C vs. 36°C on comatose patients after cardiac arrest stratified by the severity of encephalopathy. Resuscitation. 2022

論文の内容

研究対象

18歳以上の非外傷性心停止後の昏睡(GCS 8点以下)患者

除外基準

脳卒中、外傷性脳損傷、進行性の神経変性疾患、体温管理療法のレジメンが不明、12時間後と24時間後の脳波なし、6か月後の神経学的予後が不明

脳症や神経学的予後の定義

脳症の程度は、脳波によって軽度の脳症(mild encephalopathy)、中等度の脳症(moderate encephalopathy)、重度の脳症(severe encephalopathy)に分類した。

神経学的予後は、CPC (Cerebral Performance Category) 1-2が良好、3-5が不良とした。

脳症の重症度ごとの低体温療法と平温療法

低体温療法(33℃)270人、平温療法(36℃)209人の神経学的予後は、ほぼ同等だった。

しかし脳波による脳症の程度によって層別化すると、中等度の脳症では良好な神経学的予後は低体温療法群で有意に多かった(66% vs. 45%, オッズ比 2.38, 95% CI 1.32-4.30)。軽度の脳症では、低体温療法群と平温療法群で有意な差はなかった(88% vs. 81%, オッズ比 1.68, 95% CI 0.65-4.38)。

脳症の程度で層別化した、低体温療法群・平温療法群の神経学的予後。
CPC 1-2が神経学的予後良好、3-5が不良。

脳症の程度以外に、心停止の原因、初期波形が心室細動か否かを含め、多変量解析を行った。その結果、中等症では低体温療法が神経学的予後良好と関連しているが(オッズ比 2.39, 95% CI 1.40-4.08)、軽症では関連していなかった(オッズ比 0.81, 95% CI 0.41-1.59)。

脳症の程度で層別化した、低体温療法・平温療法の神経学的予後良好に関するオッズ比。
中等度の脳症群のみで低体温療法が神経学的予後良好と関連している。

考えたこと

脳症の程度によっては、平温療法と比較して低体温療法の方が有効である可能性が示唆されました。つまり、中等度の脳症では低体温療法が優れる可能性があり、軽度または重度の脳症では平温療法と変わらない可能性があります。

この結果の解釈は難しいと思いました。確かに、低酸素脳症が重症だといかなる治療にも反応しなさそうです。逆に軽症過ぎると、低体温療法の治療効果が小さく、平温療法と差がつかないのかもしれません。一方で中等症だと、低体温療法と平温療法の差が最もつきやすいといったところでしょうか。

本研究の結果は観察研究でランダム化比較試験ではありません。よって、脳波で選別した中等度の脳症で、低体温療法が優れるとは断言できません。あくまで「可能性がある」程度だと理解しておくことは大切です。

低体温療法、脳障害の重症度によっては平温療法よりも優れる可能性がある

ブログ著者・監修者
  • ブログ著者・監修者
  • 上原和幸(循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医)
    日本医科大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターで初期研修(内科プログラム)を行う。その後は循環器内科で勤務。現在、日本医科大学付属病院 総合診療科 助教、日本赤十字社医療センター循環器内科 非常勤医師。
    主な資格:循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医、認定内科医、臨床研修指導医、日本赤十字社認定臨床医、日本病院総合診療医学会認定医、日本旅行医学会認定医。
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