ECMOを用いた心肺蘇生(ECPR)、予後改善はまたも証明されず

紹介する論文

 心停止患者にECMOを用いて酸素化と循環を維持する治療は、ECPR(extracorporeal cardiopulmonary resuscitation)と呼ばれます。一時的にECMOを用いて患者の酸素化と循環を維持している間に、自己心拍再開(ROSC)を目指す治療です。このECPR、理論上は予後を改善させるはずです。

 ところが今までの臨床試験において、ECPRは必ずしも良好な成績を残せていません。Prague OHCA studyでは、ECPRを施行しても6ヵ月後の神経学的転帰を改善できませんでした。

  >>難治性心停止でのECMOを用いた心肺蘇生、有効性は証明されず

 一方、ECPRの有効性を示せたランダム化比較試験としてはARREST試験があります(Yannopoulos Demetris, et al. Advanced reperfusion strategies for patients with out-of-hospital cardiac arrest and refractory ventricular fibrillation (ARREST): a phase 2, single centre, open-label, randomised controlled trial. The Lancet. 2020;396:1807-16)。しかし、このARREST試験は単施設で行われました。そのため、他の医療施設でも同様の成績を残せるかは定かではありません。単施設でのみ良好な成績が残せたとしても、他の施設で同様の成績が残せなければ一般的な治療にはなり得ません。

 多施設でのECPRの有効性を証明するため、オランダでINCEPTION試験が行われました。今回はその結果を紹介します。

Suverein Martje M, et al. Early Extracorporeal CPR for Refractory Out-of-Hospital Cardiac Arrest. New England Journal of Medicine. 2023;388:299-309

論文の内容

対象患者

18歳から70歳で目撃があり、バイスタンダーによるBLSが開始されている心停止の患者。

さらに初期波形が心室性不整脈(救急隊によって確認された心室細動または心室頻拍、またはAEDで検出されたショック適応リズム)であり、15分のACLSに反応しない難治性のもの。

除外基準

ACLS開始後15分以内に循環動態が安定化したROSCが得られた場合

NYHA class III・IVの末期心不全がある場合

重症肺疾患(COPD GOLD Stage III・IV)がある場合

播種性悪性疾患がある場合

妊娠が明らか、あるいは疑われる場合

両側の大腿動脈バイパス術後の場合

ECPRの禁忌があることが既知な場合

事前に蘇生または侵襲的換気を事前医療指示書がある場合

心停止発生からカニュレーション開始までの予測時間が60分以上かかることが予想される場合

心停止前にCerebral Performance Categoryスコア3または4(重度の神経学的障害または持続的植物状態)の場合

Injury Severity Score >15の多発外傷の場合

介入と評価項目

 ECPR群は、ACLSを15分施行しても心停止が持続する場合、病院への搬送を開始した。搬送中、患者情報は病院にも伝達する。体温管理療法や体外循環の管理はガイドラインや施設のプロトコールを使用した。ECPR開始前に循環動態が安定したROSCが得られた場合は、ECPRは施行しなかった。治療中止は医療チームの判断に委ねられた。

 主要評価項目は、30日後の良好な神経学的転帰(Cerebral Performance Categoryスコア1または2:正常あるいは自立可能なレベルの障害)とした。副次評価項目は、30日後の生存、3か月後のCerebral Performance Categoryスコア1または2、6か月後のCerebral Performance Categoryスコア1または2、治療中断の理由などとした。

結果

対象患者

 160人の患者がランダム化され、病院到着時点で組み入れ基準を満たさなかった26人は除外された。最終的に70人がECPR群に、64人が従来のCPR群に割り当てられた。

 対象患者の平均年齢は54±12歳、男性は約90%だった。自宅での心停止は約40%、5分以内にCPRが開始された割合は両群とも95%以上だった。搬送距離は約17kmだった。心停止の原因は急性心筋梗塞が約80%だった。二次的な不整脈は約17%だった。

 心停止から救急隊到着までは平均8分、心停止から現場出発までは約23分だった。心停止から病院到着までは約37分だった。

臨床経過

 ECPR群では、70人中52人がECPRを開始された。18人はECPRを開始されなかった(このうち13人は病院到着前に安定したROSCが得られていた)。病院到着からカニュレーション開始まで、中央値は16分だった。カニュレーションに要した時間は中央値20分だった。心停止からECMOの循環が始まるまでの中央値は74分だった。PCIはECPR群で34人(49%)、従来のCPR群14人(22%)に施行された。生存退院できたのは14人と13人だった。

 主要評価項目である30日後の良好な神経学的転帰が得られたのは、ECPR群は70人中14人(20%)、従来のCPR群は62人中10人(16%)だった(オッズ比 1.4、95%信頼区間 0.5-3.5; p=0.52)。

 副次評価項目である3か月後に良好な神経学的転帰が得られた患者は、ECPR群で68人中12人(18%)、従来のCPR群は63人中9人(14%)だった(オッズ比1.5、95%信頼区間 0.6-3.8)。6か月後に良好な神経学的転帰が得らていたのは、ECPR群で70人中14人(20%)、従来のCPR群は63人中10人(16%)だった(オッズ比1.3、95%信頼区間 0.5-3.3)。

 ECPR群では56人で治療が中断された。その治療中断の理由は、24人(43%)が神経学的転帰不良であること、15人(27%)が多臓器不全であった。

 一方、従来のCPR群では40人(78%)で治療が中断された。治療中断の最多の理由は「これ以上の治療選択肢がない」ことで40人(78%)と最多だった。

 重篤な有害事象は1患者当たりECPR群で1.4±0.9件、従来のCPR群で1.0±0.6件だった。

考えたこと

 難治性心停止患者にV-A ECMOを導入しても、統計学的に有意な神経学的転帰の改善は得られませんでした。ECPRで予後を改善できることを期待していただけに残念な結果です。

 この臨床試験では、神経学的転帰が不良との理由で、ECPR群70人中24人の治療を中断されていることです。神経学的転帰はリハビリテーションにより6か月間は改善しうることが示されています(Tong J. T, et al. Functional Neurologic Outcomes Change Over the First 6 Months After Cardiac Arrest. Crit Care Med. 2016;44:e1202-e7)。そのため、primary outcomeを6ヵ月後の神経学的転帰に設定し、治療を継続していれば、ECPRが予後を改善するという結果が得られた可能性もありそうです。

 対象患者の選定が必要である旨がEditorialでも述べられています。ECPRの対象患者を選定する確立された方法はありません。ガイドライン上でも、ECPRの適応患者を選定する方法は定められていません。ECPRはできるだけ早期に導入したほうが、転帰の改善が得られます。そのため、ECPRを行う決断は早いに越したことはありません。このブログの著者は、病院到着前に神経学的転帰を予測し、ECPR適応患者を選定するのに使用できるABCスコアを提唱しました。

Uehara K et al. Prehospital ABC (Age, Bystander and Cardiogram) scoring system to predict neurological outcomes of cardiopulmonary arrest on arrival: post hoc analysis of a multicentre prospective observational study. Emerg Med J. 2023:42-47.

このABCスコアはAge(70歳以下)、Bystander factor(No-flow time 5分以内)、Cardiogram(心室細動または心室頻拍)の3要素から構成されます。各要素に1ポイントずつ割り振られ、合計は0-3点です。0点の場合はほぼ神経学的予後が良好になる見込みはありません。一方3点の場合は神経学的予後が期待できます。ブログ著者は、「このABCスコアが3点の患者を対象にすれば、多施設研究でもECPRで予後を改善できるのでは?」と考えていました。INCEPTION試験の対象になっているのは、ABCスコア3点(年齢70歳以下、No-flow time 5分以内、初期波形が心室細動または心室頻拍)の患者が95%以上を占めます。今回の研究では、ブログ著者の考えが正しいことは証明されませんでした。

 今後ECPRの有効性を示すためには、さらに大きなサンプルサイズで試験を行う必要があるかもしれません。さらに厳しい患者選別、ECPRプロトコールの策定も必要になりそうです。できるだけ早期にECMOを使用するため、搬送中にシース挿入を開始するといった工夫も必要かもしれません。より安全にカニュレーションを行うために、直接カテーテル室に搬入することも検討されます。

 またECPRを行う術者・施設の選定も重要です。ARREST試験では、カテーテル室到着からECMOが駆動するまで平均7分でした。一方INCEPTION試験ではカニュレーションに中央値で20分かかっているようです。ARREST試験のFirst author、Yannopoulisさんのように迅速にECMOを導入することも大切な要素かもしれません。Yannopoulisさんが実際にECPRを行う様子は、下記の動画の30分40秒からをご覧ください。

 ARREST試験はECPRのランダム化試験で統計学的に優越性を証明できた単施設研究です。試験に参加する多くの施設がこのスピード感でECMOを導入できるようになれば、多施設試験でも必ずやECPRの有効性を証明できると思います。

ECMOを用いた心肺蘇生(ECPR)、神経学的転帰の改善をまたも証明されず

ブログ著者・監修者
  • ブログ著者・監修者
  • 上原和幸(循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医)
    日本医科大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターで初期研修(内科プログラム)を行う。その後は循環器内科で勤務。現在、日本医科大学付属病院 総合診療科 助教、日本赤十字社医療センター循環器内科 非常勤医師。
    主な資格:循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医、認定内科医、臨床研修指導医、日本赤十字社認定臨床医、日本病院総合診療医学会認定医、日本旅行医学会認定医。
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