難治性心停止でのECMOを用いた心肺蘇生、有効性は証明されず
紹介する論文
院外心停止の予後は依然として不良です。残念ながら、社会復帰できる方は約10%程度に留まっています。
予後を改善させるために、病院到着時に心肺停止状態だった方、あるいはショックが続いている方を対象に、体外膜型人工肺(ECMO, extracorporeal membrane oxygenation)を用いた蘇生が行われることがあります。この治療はECLS(extracorporeal life support)と呼ばれます。特に心停止例に対して行う場合は、ECPR(extracorporeal cardiopulmonary resuscitation)と言われます。ECLSは、大量の医療資源を投入することになります。そのため、ECLSにより予後が改善できるか、すなわち社会復帰できる人を増やせるかは、重要な問題です。
そんな中、チェコでECLSの効果を検証する単施設ランダム化試験(Prague OHCA study)が行われました。今回はその試験結果を紹介します。
論文の内容
Patient
18歳~65歳で、心原性と推測される目撃ありの心停止で蘇生が継続されており、ACLSを施行しても5分間自己心拍再開が得られず、ECLSチームが出動可能な状況の患者
除外基準
目撃なしの心停止、非心原性心停止と推測される場合、妊娠が確定しているかその疑い、初期蘇生5分以内に自己心拍再開が得られた場合、意識が改善した場合、明らかに生命にかかわる合併症がある場合、出血性疾患、DNRオーダー、心停止前のCerebral Performance Category (CPC)が3以上
Intervention(侵襲的治療群)
ただちに心臓センターのカテーテル室に搬送し、病院到着時までに自己心拍が再開していない場合は機械的胸骨圧迫を併用しながらECPRを行う(もし自己心拍が再開していても、収縮期血圧が90mmHg未満、または中用量~高用量の血管収縮薬を要する場合もECMOを導入する)。
ECMO導入後は、侵襲的診断・治療処置(冠動脈造影、肺動脈造影、大動脈造影、経皮的冠動脈インターベンションなど)を行った。さらに下肢虚血を予防するために、順行性の環流カニューレを挿入した。抗凝固療法はヘパリンを用い、APTTの目標値は50-70秒とした。
※ECMO使用時は下記を確認した。
心停止あるいは、その救急要請からカテーテル室まで60分以内であること、心臓センターのチームの同意、不可逆的な脳損傷がないこと、出血がないこと、大腿動脈と大腿静脈にカニュレーションが可能なこと
Comparison(標準治療群)
心停止の現場でのACLSを継続する。自己心拍が再開した場合は、冠動脈造影などのために病院に搬送する。
※蘇生後のケアは両群で標準化されており、生化学評価、緊急でのベッドサイトでの心エコー、実行可能で臨床的に必要であれば全身のCT、体温管理療法を行った。
Outcome
256例の症例が登録されたところで、侵襲的治療群の無益性に関する事前の規定に該当したため、試験は中止された。最終的に、124人が侵襲的治療群、132人が標準治療群に割り付けられた。全体で20例がクロスオーバーした。
患者背景
年齢中央値は、侵襲的治療群で59歳(IQR, 48-66)、標準治療群で57歳(IQR, 47-65)だった。
256例中44例(17%)が女性だった。
心停止の原因として最も多かったのは、急性冠症候群(50%)だった。
心停止は公共の場で生じることが多く、侵襲的治療群で44例(36%)、標準治療群で54例(41%)だった。
初期波形は心室細動が多く、侵襲的治療群で72例(58%)、標準治療群で84例(64%)だった。
バイスタンダーによる蘇生は侵襲的治療群の123例(99%)、標準治療群の129例(98%)で行われ、心停止後中央値3分(IQR, 2-5)、2分(IQR, 1-4)で開始されていた。
主要評価項目
神経学的に良好な状態(CPC 1か2)での180日後の生存は、侵襲的治療群で39例(31.5%)、標準治療群で29例(22%)であり、統計学的な有意差はつかなかった(オッズ比,1.63 [95% CI, 0.93-2.85]、絶対差, 12.4% [95% CI, -1.3-20.1%]; P=0.09)。
副次評価項目
神経学的に良好な状態(CPC 1か2)での30日後の生存は、侵襲的治療群で38例(30.6%)、標準治療群で24例(18.2%)であり、統計学的な有意差はつかなかった(オッズ比,1.99 [95% CI, 1.11-3.57]、絶対差, 12.4% [95% CI, 1.9-22.7%]; P=0.02)。
最低24時間は薬物や機械的サポートを要しない心臓の回復は、侵襲的治療群で54例(43.5%)、標準治療群で45例(34.1%)であり、統計学的な有意差はつかなかった(オッズ比,1.49 [95% CI, 0.91-2.47]、絶対差, 9.4% [95% CI, -2.5-21%]; P=0.12)。

合併症
侵襲的治療群では、致死的出血、頭蓋内出血を含む大出血事象がより多く認められた(31% vs 15%)。
考えたこと
心原性が疑われる心停止患者を早期に病院へ搬送し、ECMOを用いた心肺蘇生を施行しても、180日後の良好な神経学的状態での生存は、統計学的に有意には増えませんでした。
統計学的には有意でないものの、ECMOを用いた群の方が、神経学的予後は良さそうな結果でした。ECMOを用いた心肺蘇生(ECPR)は究極的な状況下で行われます。予後が改善する可能性がわずかでもあれば、今後も行われると思います。
なお、以前に発表されたECPRのランダム化試験としては、ARREST試験(Yannopoulos Demetris, et al. Advanced reperfusion strategies for patients with out-of-hospital cardiac arrest and refractory ventricular fibrillation (ARREST): a phase 2, single centre, open-label, randomised controlled trial. The Lancet. 2020;396:1807-16)がありました。このARREST試験も、今回のPrague OHCA studyと同じく、単施設での試験になります。
このARREST試験はショック適応リズム(すなわち心室細動または無脈性心室頻拍)のみを対象としています。つまり、予後が良い患者を対象としたため、有意性を示せた可能性があります。
また、ECMOを導入する際に要した時間はこのPrague OHCA studyでは中央値12分(IQR, 9-15)でした。ところが、ARREST試験では平均7分です。ECMO導入の速さも結果に影響を与えた可能性がありそうです。
ARREST試験のFirst author、YannopoulisさんがECMOを導入する様子です(30分40秒くらいからをご覧ください)。
とても上手だと思います。単施設でのランダム化試験だと、ECMOを導入するのが「名人」がいると、それだけ予後が改善してしまう可能性があります。しかし、ひとりの「名人」しかできない医療は、普及しません。このYannopoulisさんという「名人」がいない施設でも予後が改善できなければ、一般的な治療にはなりえません。最終的には、多施設での評価が必要でしょう。そして何よりも、ECMO導入の「名人」に近づくためのトレーニングも重要そうです。
後日追記
同じくECPRのランダム化比較試験であるINCEPTION試験の結果も公開されました。詳細は下記の記事をご覧ください。
ECMOを用いた心肺蘇生、統計学的には有意に神経学的予後を改善できず。