ダパグリフロジン(SGLT2阻害薬)、HFmrEF+HFpEFに有効

紹介する論文

 心不全に対して有効な薬物治療は、LVEF(左室駆出率)によって異なることが知られています。そのため心不全は、LVEFによって以下の3つに分類されるようになりました。

HFrEF, heart failure with reduced ejection fraction

HFmrEF, heart failure with mid-range ejection fraction(あるいはheart failure with mildly reduced ejection fraction)

HFpEF, heart failure with preserved ejection fraction

 LVEFが40%未満に低下した心不全HFrEFでは、いわゆる’fantastic four’が基本薬になります。具体的には、β遮断薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬・ネプリライシン阻害薬(ARNI)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬の4つです。

 >>HFrEFの最適な薬物治療はβB+ARNI+MRA+SGLT2i

 一方、LVEFが40%以上50%未満のHFmrEF、LVEFが50%以上のHFpEFには利尿薬以外に有効な薬剤はありませんでした。2021年、EMPEROR-Preserved試験の結果が発表されました。この試験は、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジン(ジャディアンス®)のHFmrEF+HFpEFへの効果を調べたものです。

 >>エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)がHFpEFに有効?

心血管死亡または心不全入院はエンパグリフロジン群13.8%、プラセボ群17.1%に生じ、エンパグリフロジンの有効性が示されました(ハザード比, 0.79; 95% CI, 0.69-0.90; P<0.001)。治療薬に乏しかったHFpEFで、有効な治療薬が初めて登場したことになります。しかし、一つの疑問が残ります。「この治療効果はエンパグリフロジンに特異的なものではないのか?」、「他のSGLT2阻害薬でも同様なのか?」ということです。

 今回、HFmrEF+HFpEFに対してダパグリフロジンの有効性がDELIVER(Dapagliflozin Evaluation to Improve the Lives of Patients with Preserved Ejection Fraction Heart Failure)試験で検証されました。2剤目のSGLT2阻害薬を評価した試験の結果を紹介します。

Solomon S. D, et al. Dapagliflozin in Heart Failure with Mildly Reduced or Preserved Ejection Fraction. N Engl J Med. 2022

論文の内容

Patient

40歳以上で構造的な心疾患の所見があり、ナトリウム利尿ペプチドが高値でLVEFが40%より高い、安定した心不全患者

※糖尿病の有無は問わない。入院患者・外来患者の有無も問わない

※以前にLVEFが40%以下であっても、評価時に40%を超えていれば対象とした。

※詳細な組み入れ基準、除外基準は省略。

Intervention(ダパグリフロジン群)

通常治療 + ダパグリフロジン10mg 1日1回

Comparison(プラセボ群)

通常治療 + プラセボ

Outcome

患者背景

 2018年8月27日~2020年12月30日において、20か国353施設で10418人のスクリーニングが行われた。そのうち6263人がランダム化され、ダパグリフロジン群3131人、プラセボ群3132人に割り付けられた。

 観察期間の中央値は2.3年(IQR 1.7-2.8年)だった。2群間の患者背景はバランスが取れていた。患者の平均年齢は約71歳、女性が約44%、アジア系が約20%、白人が約70%だった。

心不全のNYHAはClass Ⅱが約75%、Class Ⅲが約24%を占めていた。LVEFの平均値は54%で、49%以下が約34%、50-59%が約36%、60%以上が約30%だった。以前にLVEFが40%以下だった患者は約18%だった。糖尿病合併は約45%、高血圧合併は約89%、eGFRの平均値は61 ml/min/1.73m2だった。

主要転帰

 主要転帰である心不全増悪イベント(予定外の心不全入院、心不全による緊急受診)と心血管死亡の複合は、ダパグリフロジン群512例(16.4%)、プラセボ群610例(19.5%)に認められた(ハザード比 0.82;95%CI 0.73〜0.92、P<0.001)。

 左室駆出率が60%未満の患者における主要転帰の結果も、全体集団の結果と同様だった(ハザード比 0.83;95% CI 0.73~0.95、P=0.009)。

各イベントの発生率(黄色線:ダパグリフロジン群、青線:プラセボ群)
A:主要転帰(心不全増悪イベント+心血管死)、B:心不全増悪イベント、C:心血管死、D全死因死亡

副次転帰

 初発・再発を含む心不全増悪イベントと心血管死亡の発生数は、ダパグリフロジン群815回(11.8回/100人・年)、プラセボ群1057回(15.3回/100人・年)であり、ダパグリフロジン群で少なかった(率比 0.77;95%CI 0.67~0.89;P<0.001)。

 全死因死亡はダパグリフロジン群497例(15.9%)、プラセボ群526例(16.8%)に生じた(ハザード比 0.94;95%CI 0.83〜1.07)。

サブグループ解析

組み入れ時のLVEFにより、主要転帰のハザード比に差はなかった。

サブグループ解析

安全性

 死亡を含む重篤な有害事象は、ダパグリフロジン群1361人(43.5%)、プラセボ群1423人(45.5%)に生じた。薬剤の中止につながった有害事象は、ダパグリフロジン群182人(5.8%)、プラセボ群181人(5.8%)に生じていた。

 肢切断はダパグリフロジン群19人(0.6%)、プラセボ群25人(0.8%)だった。またケトアシドーシスの疑い、または確定例はダパグリフロジン群2人(0.1%)、プラセボ群0人だった。重大な低血糖イベントはそれぞれ6人(0.2%)、プラセボ群7人(0.2%)だった。フルニエ壊疽は両群で1例もなかった。

考えたこと

 HFmrEF+HFpEFに対して、ダパグリフロジンが心不全増悪イベントと心血管死亡を減らすことが示されました。また、左室駆出率60%以上の患者と60%未満の患者を比較しても、有効性に大きな差はなさそうでした。

 今回のダパグリフロジンを検証したDELIVER試験とエンパグリフロジンの効果を検証したEMPEROR-Preserved試験、両試験のデザインは非常に似ています。EMPEROR-Preserved試験では、EFが65%を超えるとエンパグリフロジンの薬効が衰える傾向がありました。

 >>エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)、EF65%未満の心不全入院を抑制

しかしDELIVER試験の結果を見ると、EFが高くなってもダパグリフロジンは有効性を維持できていそうです。EFが60-65%を超えるようなHFpEFでは、ダパグリフロジンの方が良いのかもしれません。

 また、EMPEROR-Preserved試験の結果だけでは、HFmrEF+HFpEFへのエンパグリフロジンの有効性はdrug effectである可能性を否定できませんでした。今回のDELIVER試験を踏まえると、SGLT2阻害薬のclass effectである可能性が高まったと言えます。

ダパグリフロジンがHFmrEF+HFpEFに有効

(エンパグリフロジンと異なり、LVEFが高くても薬効が衰える傾向なし)

ブログ著者・監修者
  • ブログ著者・監修者
  • 上原和幸(循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医)
    日本医科大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターで初期研修(内科プログラム)を行う。その後は循環器内科で勤務。現在、日本医科大学付属病院 総合診療科 助教、日本赤十字社医療センター循環器内科 非常勤医師。
    主な資格:循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医、認定内科医、臨床研修指導医、日本赤十字社認定臨床医、日本病院総合診療医学会認定医、日本旅行医学会認定医。
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