新型コロナ(COVID-19)ワクチンによる妊娠中の有害事象は検出されず

紹介する論文

妊娠は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクになることが知られています。理屈の上では、重症化を予防するために、ワクチンを使用した方がいいはずです。

ところが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンは2020年に開発されたものです。比較的新しい薬剤であり、妊娠中の有害事象との関係はまだ十分に明らかになっていません。妊婦に対するワクチン投与については下記の記事でも紹介しましたが、症例数が十分とは言えませんでした。

 >>ファイザー製COVID-19ワクチン、妊婦での有効性と安全性

妊婦の方は、この新しいワクチンを打つことを特に不安に思われるはずです。そこで、このワクチンと妊娠中の有害事象との関係がスウェーデン・ノルウェーで調査されました。今回はその結果を紹介します。

Magnus M. C, et al. Association of SARS-CoV-2 Vaccination During Pregnancy With Pregnancy Outcomes. JAMA. 2022

論文の内容

研究対象

妊娠22週以降に終了した単胎妊娠で42週までのフォローアップが可能だったケース

(スウェーデンでは2021年1月1日~2022年1月12日に妊娠したことを登録された場合、およびノルウェーでは2021年1月1日~2022年1月15日に出生したことを登録された場合を対象。)

除外基準

妊娠前にワクチン接種をした人

Johnson & Johnsonのワクチン(JNJ-78436735)を接種した人

結果

患者背景

157,521人の単胎出産(スウェーデン103,409人、ノルウェー54,112人)が解析対象になった。

このうち28 506人(18%)が妊娠中にSARS-CoV-2のワクチンを接種していた。4.4%が1回のみ、13.7%が2回の接種を受けていた。mRNA-1273ワクチン(モデルナ製)が4.8%、BNT162b2ワクチン(ファイザー製)が12.9%使用され、AZD1222(アストラゼネカ製)は0.3%だった。

最初のワクチン接種の妊娠日数の中央値は、スウェーデンで184日(IQR, 154-221),ノルウェーで209日(IQR, 175-238)だった。妊娠中にワクチン接種を受けたのは、第3期が50.4%、第2期は45.6%、第1期はわずか3.9%であった(スウェーデンとノルウェーでは、COVID-19の重症化リスクが特に高い人を除き、妊娠第1期のワクチン接種は推奨されていなかった)。

妊娠中にSARS-CoV-2感染を起こしたのは、ワクチン未接種者で8.5%、ワクチン接種者で3.4%だった。

妊娠中の有害事象

早産

全出生のうち、4.2%が早産(2.6%が自然、1.6%が医学的に誘発)だった。妊娠中にワクチン接種を受けた人の早産リスクは、統計学的に有意な増加は認められなかった(リスクのある妊娠日数10000日あたり、6.2日 vs 4.9日; 調整済みハザード比, 0.98 [95% CI, 0.91 to 1.05])。

また、全出生のうち0.5%が在胎期間32週未満のvery preterm birthだった。妊娠中にワクチン接種を受けた人のvery preterm birthリスクも、統計学的に有意な増加は認められなかった(調整済みハザード比, 0.91 [95% CI, 0.63 to 1.31])。

死産

死産に至ったのは0.2%だった。妊娠中のワクチン接種後の死産リスクは統計的に有意に増加しなかった(リスクのある妊娠日数100000日あたり、2.1日 vs 2.4日; 調整済みハザード比, 0.86 [95% CI, 0.63 to 1.17])。

早産、死産の累積発生率(左がスウェーデン、右がノルウェー。黄線がワクチン未接種、緑線がワクチン接種の場合)
A:早産(在胎期間が37週未満)
B:very preterm birth(在胎期間32週未満)
C:死産

胎児の体重

年齢と在胎週数から推測される値の10パーセントタイル未満だった割合は、妊娠期間中にワクチン接種を受けた場合でも、統計学的に有意な増加はなかった(7.8% vs 8.5%; 差, -0.6%[95%CI,-1.3%~0.2%]; 調整後オッズ比, 0.97[95%CI, 0.90~1.04])。

Apgar score

5分後のApgar scoreが7点未満の割合は、妊娠期間中にワクチン接種を受けた場合でも、統計学的に有意な増加はなかった(1.5% vs 1.6%; 差, -0.05%[95%CI,-0.3%~0.1%]; 調整後オッズ比, 0.97[95%CI, 0.87~1.08])。

新生児の医療を要する入院

新生児が医療を要する入院をする割合は、妊娠期間中にワクチン接種を受けた場合でも、統計学的に有意に増加しなかった(8.5% vs 8.6%; 差, 0.003%[95%CI,-0.9%~0.9%]; 調整後オッズ比, 0.97[95%CI, 0.86~1.10])。

考えたこと

妊娠中に新型コロナウイルスワクチンを接種することと、妊娠関連の有害事象に関連するのかが明らかにされました。

妊娠中にワクチン接種をしても、早産や死産、胎児発育不全などが増えることはなさそうです。つまり、妊娠中のワクチン接種を支持するものです。この結果により、少しでも妊婦の方の不安が取り除かれれば良いと思います。

Discussionで記載されていたのですが、妊娠中にワクチンを接種することは、生まれた子供にもメリットがありそうです。妊娠中にワクチンを接種すれば、抗体が胎児に移行し、生後数か月は感染予防効果があるそうです。考えてもみませんでしたが、妊娠中にワクチンを打つメリットとして、胎児の免疫獲得ということもあると思います。

また、本研究では妊娠第1期にワクチン接種を行った人はほとんど含まれません。よって、第1期でのワクチン接種の安全性はいまだに不明です。ワクチンを接種するのであれば、妊娠第2期以降が良さそうです。

新型コロナウイルスワクチン、妊娠中の有害事象との明らかな関係はなさそう。

ブログ著者・監修者
  • ブログ著者・監修者
  • 上原和幸(循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医)
    日本医科大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターで初期研修(内科プログラム)を行う。その後は循環器内科で勤務。現在、日本医科大学付属病院 総合診療科 助教、日本赤十字社医療センター循環器内科 非常勤医師。
    主な資格:循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医、認定内科医、臨床研修指導医、日本赤十字社認定臨床医、日本病院総合診療医学会認定医、日本旅行医学会認定医。
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