妊娠中のコロナワクチン接種、出生児の重症化も予防する
紹介する論文
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンが重症化を予防することは、多くの研究結果から明らかです。また、妊娠中のワクチン接種も有効であり、妊娠経過への安全性も示されています。
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妊娠中のワクチン接種は、妊婦だけではなく、胎児へも好影響を与える可能性があります。母体の抗体は、胎盤や母乳を介して児に移行します。その結果、出生児をCOVID-19の重症化から予防することが期待できます。
母体へのワクチン接種により出生児のCOVID-19重症化を予防できるのかを検証した研究を紹介します。
論文の内容
方法
生後6カ月未満の乳児で、COVID-19による入院に対する母親のワクチン接種の有効性を評価するために、症例対照研究を実施した。この研究は、米国の30の小児病院で行われた。
「症例」の乳児は、COVID-19と一致する症状で入院し、SARS-CoV-2 PCR陽性、あるいは抗原検査で陽性である生後6か月未満の者とした。一方、「対照」の乳児はCOVID-19と関連する症状の有無にかかわらず、SARS-CoV-2 PCR陰性、あるいは抗原検査で陰性である生後6か月未満の者とした。その両者での妊娠中の母親のワクチン接種(mRNAワクチンの2回以上の接種)をしているオッズ比を評価して、ワクチンの有効性を算出した。
母親のワクチン接種は、「BNT162b2(ファイザー製)またはmRNA-1273(モデルナ製)ワクチンのいずれかの2回接種を妊娠中に完了したこと」と定義された。
結果
「症例」の乳児として537人、「対照」の乳児として512人が解析に含まれた。症例の乳児は、181人がデルタ株流行時期、356人がオミクロン株流行時期であり、月齢の中央値は2か月だった。「症例」の乳児のうち16%、「対照」の乳児のうち29%が、妊娠中にワクチン接種を行った母親から出生していた。
乳児のCOVID-19による入院に対する母親のワクチン接種の有効性は、全体で52%(95%信頼区間[CI], 33-65)だった。
デルタ株流行時期で80%(95% CI, 60-90)、オミクロン株流行時期では38%(95% CI, 8-58)だった。
母親のワクチン接種が妊娠20週以降に行われた場合は69%(95% CI, 50-80)、妊娠20週以内の場合は38%(95% CI, 3-60)だった。
乳児のCOVID-19でのICU入室に対する、母体ワクチン接種の予防効果は70%(95% CI, 42-85)だった。

黒が全体でのデータ。
緑が妊娠週数別のデータ。
青がデルタ株流行時期、オレンジがオミクロン株流行時期のデータ。
赤は乳児がCOVID-19でのICU入室に対する予防効果を示している。
考えたこと
妊娠中のmRNAワクチン2 回接種は、生後6ヵ月未満の乳児のCOVID-19による入院のリスク低減と関連していることが示されました。
母がワクチンを接種することで、出生児も免疫を獲得できるのはなぜでしょうか?胎盤や母乳を介して抗体が移行する影響はありそうです。もしかしたら、ワクチン成分やその副産物が胎盤を介して胎児に移行し、胎児自身が抗体を作る効果もあるかもしれません。
特に妊娠20週以降に投与した方が、出生児への予防効果はより高そうな結果でした。しかし、妊娠後期のワクチン接種によって得られる可能性のある利益は、ワクチン接種の完了やブースター接種の機会を逸することによって相殺されることが懸念されています。そのためアメリカのCDCは、妊娠中のできるだけ早い時期にワクチン接種を行うよう推奨しているようです。日本では厚生労働省が妊娠時期を問わず、接種を推奨しています。
妊娠中のコロナワクチン接種、出生児への重症化予防効果もある