ステロイドにバリシチニブ併用でCOVID-19の死亡が減る可能性

紹介する論文

バリシチニブはヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬です。もともと、関節リウマチに対して使用されていた薬剤です。免疫抑制作用があり、中等症以上の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬としても使用が検討されました。臨床試験では、バリシチニブとレムデシビルを併用することで、COVID-19の罹病期間が短縮することが示されました。

 >>バリシチニブ+レムデシビル、COVID-19の罹病期間を短縮

そのため、厚生労働省が発行する「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第7.1版」では、中等症Ⅱ以上での使用が推奨されています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第7.1版」より引用

中等症Ⅱ以上の治療で問題なのが、「どの免疫抑制薬を使用するか、どの薬剤を併用するか」という点です。

ステロイドに加えてトシリズマブなどのIL-6拮抗薬を併用すると予後が改善することは示されています。

 >>COVID-19へのIL-6受容体拮抗薬、ステロイドの併用が重要

それではステロイドに加えて、バリシチニブを併用した場合も予後は改善するでしょうか?今回は、ステロイドを使用している集団にバリシチニブを併用した効果を検証したCOV-BARRIER試験を紹介します。

Marconi Vincent C, et al. Efficacy and safety of baricitinib for the treatment of hospitalised adults with COVID-19 (COV-BARRIER): a randomised, double-blind, parallel-group, placebo-controlled phase 3 trial. The Lancet Respiratory Medicine. 2021;9:1407-18

論文の内容

Patient

18歳以上で、SARS-CoV-2感染が確認され、肺炎またはCOVID-19の活動性の症状があり、少なくとも1つの炎症マーカー(CRP、Dダイマー、LDH、フェリチン)の上昇があったNIAID-OS score 4-6(※)の入院患者。

※ 試験途中でNIAID-OS score 5-6のみ登録することに変更された。

NIAID-OS (National Institute of Allergy and Infectious Disease Ordinal Scale) score

1:入院なし、生活に影響なし

2:入院なし、生活に影響あり、在宅酸素療法が必要

3:入院、酸素なし、治療介入なし

4:入院、酸素なし、治療介入あり

5:入院、酸素投与必要

6:入院、非侵襲的人工呼吸や高流量酸素が必要

7:入院、侵襲的人工呼吸、ECMOが必要

8:死亡

除外基準

試験参加時に、侵襲的人工呼吸を必要とした場合(NIAID-OS score 7)、免疫抑制薬(大量コルチコステロイド、生物製剤、T細胞標的またはB細胞標的治療薬、インターフェロン、JAK阻害剤)を投与中の場合、回復期血清またはCOVID-19の免疫グロブリン静脈内投与歴がある、好中球減少症(好中球数1000個/μL未満)、リンパ球減少症(リンパ球数200個/μL未満)、ASTまたはALTが正常上限の5倍以上、またはeGFRが30mL/min/1.73m2未満である者など。

Intervention(バリシチニブ群)

抗ウイルス薬・ステロイド・静脈血栓塞栓症予防を含む標準治療に加えて、バリシチニブ群4mg/day、最大14日間

(eGFRが30-60 mL/min/1.73m2の場合は、2mg/dayに減量)

Comparison(プラセボ群)

抗ウイルス薬・ステロイド・静脈血栓塞栓症予防を含む標準治療

Outcome

1525人がランダム化され、バリシチニブ群に764人、プラセボ群に761人が割り付けられた。

患者背景

データのある1518人のうち、登録前7日以内に症状があったのは1265人(83.3%)で、NIAID-OSスコア4点が186人(12.3%)、5点が962(63.4%)、6点が370人(24.4%)だった。

1204人(79.3%)がステロイドを投与され、そのうち1099人(91.3%)がデキサメタゾンだった。

287人(18.9%)はレムデシビルを投与され、そのうち263人(91.6%)がステロイドを投与されていた。

1525人のうち、1520人(99.7%)が少なくとも一つの既往症を有していた。

主要評価項目

28日目までにNIAID-OS score 6-8に病状が進行した患者は、バリシチニブ群で27.8%、プラセボ群で30.5%だった(オッズ比 0.85, [95% CI 0.67–1.08], p=0.18)。絶対リスクは-2.7%(95% CI -7.3 ~1.9)だった。434人の病状が進行した患者のうち、95人(22%)はday1(ランダム化当日)、246人はday3に進行していた。

副次評価項目

28日目に死亡したのは、バリシチニブ群764人中62人(8%)、プラセボ群761人中100人(13%)だった28日目の全死亡率は、バリシチニブ群でプラセボ群より38%低く(ハザード比 0.57[95% CI 0.41-0.78]、p=0.0018)、絶対リスク差は-5.0%だった。

バリシチニブ投与を20人に行うと、1人の死亡が予防できる計算だった。

ランダム化からの日数と死亡率。
赤がバリシチニブ群、青がプラセボ群。

探索的な解析ではあるが60日目までに死亡したのは、バリシチニブ群764人中79人(10%)、プラセボ群761人中116人(15%)、ハザード比 0.62[95% CI 0.47-0.83]、p=0.0050)に比べ有意に低く、絶対リスク差は-4-9%ポイントと、28日目までの死亡とほぼ同様だった。

有害事象

少なくとも1つの治療に起因した有害事象が、バリシチニブ群750人中334人(45%)、プラセボ群752人中334人(44%)に出現した。

重篤な有害事象がバリシチニブ群110人(15%)、プラセボ群135人(18%)に認められた。

有害事象による死亡と報告された数は、バリシチニブ群12人(2%)、プラセボ群31人(4%)だった。

有害事象による治療中断は、バリシチニブ群56人(7%)、プラセボ群70人(9%)だった。

重篤な感染症はバリシチニブ群64人(9%)、プラセボ群74人(10%)に生じた。ベースラインでステロイドを使用していた者では、重篤な感染症はバリシチニブ群605人中58人(10%)、プラセボ群590人中63人(11%)と両群間で同程度の頻度で発生していた。

静脈血栓塞栓症はバリシチニブ群20人(3%)、プラセボ群19人(3%)だった。主要心血管イベントはバリシチニブ群8人(1%)、プラセボ群9人(1%)で同様だった。

消化管穿孔の報告はなかった。

考えたこと

ステロイドを約80%使用されている集団に、バリシチニブを併用してもNIAID-OS score 6-8に病状が進行した患者の数を減らせませんでした。しかし副次評価項目ではあるものの、28日後の死亡率が約5%減少する結果でした。またバリシチニブを併用することによる新たな安全性の懸念もありませんでした

病状が進行した患者数は減少せずに、死亡率が低下した原因として、2つの要因が考えられています。すなわち、①病状の進行スピードが速いこと、②薬剤が実際に効果を表すまでに時間がかかること、の2点です。つまり、「COVID-19の重症化スピードは速く、ランダム化当日に22%が重症化してしまう。バリシチニブに即効性はなく重症化することは防げないものの、死亡に至る前までには効果が出てくる」ということです。この考えならば、重症化率は変わらないが死亡率は減る、という結果も納得できます。

ところでCOVID-19の治療として、最初に確立したのはステロイドでした。その後、レムデシビルにバリシチニブを併用すると罹病期間が短縮することが示されました。その時点では、ステロイドにバリシチニブを併用することは感染症のリスクが上がる可能性が高く、治療選択肢にはならないと個人的には考えていました(以下の記事を参照)。

 >>バリシチニブ+レムデシビル、COVID-19の罹病期間を短縮

しかしステロイドにバリシチニブを上乗せしたほうが、死亡が減る結果が得られました。この結果はCOVID-19の重症化に関与している炎症が相当強力であることを示唆しているのかもしれません。つまり、「COVID-19重症化に関与する炎症は、ステロイド単剤だけでは抑制しきれないほど強力である」ということでしょうか。実際、REMAP-CAP試験では、ステロイドにIL-6拮抗薬を併用したほうが予後は改善することも示されています。REMAP-CAP試験の結果もこの考えを支持するものです。

COVID-19中等症Ⅱ以上、ステロイドにバリシチニブを併用したほうが死亡率は下がりそう

ブログ著者・監修者
  • ブログ著者・監修者
  • 上原和幸(循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医)
    日本医科大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターで初期研修(内科プログラム)を行う。その後は循環器内科で勤務。現在、日本医科大学付属病院 総合診療科 助教、日本赤十字社医療センター循環器内科 非常勤医師。
    主な資格:循環器専門医、総合内科専門医、内科指導医、認定内科医、臨床研修指導医、日本赤十字社認定臨床医、日本病院総合診療医学会認定医、日本旅行医学会認定医。
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