中等度リスクの急性冠症候群疑い、早期の冠動脈CT施行は有益?
紹介する論文
冠動脈CTは感度が非常に高い検査です。感度が非常に高いので、器質的な冠動脈狭窄を除外するために有用です。そのため、冠動脈疾患がない患者では、早期に冠動脈CTを行うことで侵襲的な冠動脈造影を避けることができます。欧州では、「中等度リスクの急性冠症候群疑い例では早期に冠動脈CTを施行する」のも一つの案という位置づけです。
しかし、この検査戦略については十分に検証されておらず、確立されたものではありません。今回は、この問題を検証したRAPID-CTCA試験を紹介します。
論文の内容
Patient
組み入れ基準:
急性冠症候群の疑い、または確定診断のために検査が必要とされる症状のある18歳以上の患者 のうち、少なくとも以下のうち1つを満たすもの。
1. 心電図異常
2. 虚血性心疾患の既往歴
3. トロポニンの上昇(正常基準範囲の 99%以上の上昇、または欧州心臓病学会の’rule in’の基準を満たす高感度トロポニンの上昇)
除外基準:
高リスクの急性冠症候群を疑う所見(ST上昇、ショック、急性心不全、3mm以上のST低下)がある
冠動脈CT施行困難(eGFR < 30ml/min/1.73m2、造影剤アレルギー、β遮断薬不耐能、息止め困難、β遮断薬で心拍数75回/分未満にならない心房細動など)
冠動脈CT・冠動脈造影で2年以内に閉塞性の冠動脈病変がないこと、または5年以内に正常冠動脈であることを確認できている
など
Intervention(早期冠動脈CT群)
標準治療+早期の冠動脈CT
Comparison(標準治療群)
標準治療のみ
Outcome
1748人の参加者の平均年齢は62歳、男性が64%、平均GRACEスコアは115点だった。
877人が早期冠動脈CT群、871人が標準治療群にランダムに割り付けられた。
ランダム化から冠動脈CT撮影までの中央値は4.2時間(四分位範囲1.6~21.6時間)だった。
主要評価項目である1年以内の全死亡とType1, 4bの心筋梗塞の合計は、冠動脈CT群の51人(5.8%)、標準治療群の53人(6.1%)に生じた(調整ハザード比 0.91、95%CI, 0.62-1.35, p=0.65)。
侵襲的な冠動脈造影は、冠動脈CT群の474例(54.0%)と標準治療群の530例(60.8%)で行われた(調整ハザード比 0.81、95% CI, 0.72-0.92, p=0.001)。
再灌流療法、急性冠症候群に対する薬物治療、その後の予防的治療について、両群間で差はなかった。
入院期間の中央値は、冠動脈CT群が2.2日、標準治療群は2.0日だった。冠動脈CTを行うと入院期間がわずかに長くなった(中央値の増加、0.21日; 95%CI, 0.05-0.40日)。

紫線が冠動脈CT群、黄線が標準治療群。
考えたこと
中等度リスクの急性胸痛で急性冠症候群を疑う患者において、早期に冠動脈CTを施行しても、1年後のアウトカムを変化しませんでした。また、侵襲的な冠動脈造影は減少し、入院期間は延長しました。
「早期の冠動脈CTが有益か、無益か」、読む人によってかなり解釈が変わりそうな結果だと思います。冠動脈CTを早期に行うことで、病院の滞在時間は約0.2日延長する代わりに、侵襲的な冠動脈造影が約7%減るという結果です。この結果を、「ほとんど変化がないから冠動脈CTは意味がないと捉えるか」、あるいは「冠動脈CTによって侵襲的な検査を避けることができたと捉えるか」・・・解釈は人によると思います。本試験の結果は中等度リスクの急性胸痛で急性冠症候群を疑う患者を対象にしています。冠動脈CTがどの程度有用かは、対象とする患者のリスクによっても異なると思います。
今回、早期の冠動脈CTが治療方針の決定に有用でなかった理由について、discussionで触れられていました。症状や心電図、高感度トロポニンを用いた診断の感度が十分であり、そこに冠動脈CTを加えても治療方針にさほど影響を与えなかったのかもしれないとのことでした。確かにそれも一理あると感じました。
また本研究では、ランダム化後中央値約4時間で冠動脈CTを施行しています。冠動脈CTがすぐに施行可能かは、医療機関によって異なります。そもそも冠動脈CTは、放射線部門に負担をかける検査です。「急性冠症候群を疑う患者全員に冠動脈CTがすぐに施行可能」という施設は少ないのではないでしょうか?全ての医療機関で、緊急で冠動脈CTを行うことは難しいかもしれません。
中等度リスクの急性冠症候群を疑う患者に早期冠動脈CTを行うと、侵襲的な冠動脈造影は僅かに減り、病院滞在時間は僅かに増える。