治療抵抗性高血圧、ARNIが4剤目・5剤目の降圧薬として使える
紹介する論文
高血圧症に対する降圧薬の第一選択薬はカルシウム拮抗薬、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬/アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、サイアザイド系利尿薬です。利尿薬を含むクラスの異なる3剤の降圧薬を用いても血圧が目標値まで下がらない高血圧は、治療抵抗性高血圧と言われます。
治療抵抗性高血圧であっても、減塩・運動療法が重要であることは以前に当ブログでも紹介しました。
それでも目標血圧に達しない場合は4剤目を使用することになります。4剤目としては、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、β遮断薬、α遮断薬が使用されることが多いと思います。それでは5剤目として使用しても、さらに降圧が期待できる薬剤は何でしょうか?
左室駆出率が保たれた心不全に、アンギオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)を投与したPARAGON-HF試験がありました。post-hoc解析として、治療抵抗性高血圧だった集団でネプリライシン阻害薬の降圧効果があるかを検証した研究を紹介します。
論文の内容
Patient
PARAGON-HF試験に参加した患者※のうち、以下の①または②を満たす患者
①明らかな治療抵抗性高血圧:バルサルタン、カルシウム拮抗薬、利尿薬が投与されているにもかかわらず収縮期血圧が140mmHg以上ある(糖尿病がある場合は135mmHg以上)
②明らかなMRA抵抗性高血圧:バルサルタン、カルシウム拮抗薬、利尿薬、MRAが投与されているにもかかわらず収縮期血圧が140mmHg以上ある(糖尿病がある場合は135mmHg以上)
※NYHA Ⅱ度以上、LVEF 45%以上、ナトリウム利尿ペプチドの上昇、構造的心疾患の存在が確認され、利尿薬での治療がされている心不全患者。除外基準は収縮期血圧が180mmHg以上または110mmHg以下、eGFR 30ml/min/1.73m2未満、K 5.2 mEq/L以上など。
Intervention
サクビトリル-バルサルタン97/103 mgを1日2回
Comparison
バルサルタン160 mgを1日2回
※ここでのバルサルタン単剤160mgは、サクビトリル-バルサルタン中のバルサルタン103 mgと同等の血中濃度となる
Outcome
731人(15.2%)が明らかな治療抵抗性高血圧で、135人(2.8%)が明らかなMRA抵抗性高血圧だった。
投与開始後4週、16週の降圧幅は、それぞれサクビトリル-バルサルタン群とバルサルタン群で、明らかな治療抵抗性高血圧で[-4.8(-7.0 to -2.5)、-3.9(-6.6 to -1.3) mmHg]であり、明らかなMRA抵抗性高血圧では[-8.8(-14.0 to -3.5)、-6.3(-12.5 to -0.1) mmHg]だった。
明らかな治療抵抗性高血圧で、投与開始後16週後に目標血圧に達していた割合はサクビトリル-バルサルタン群で47.9%、バルサルタン群で34.3%だった(調整オッズ比 1.78, 95% CI 1.30-2.43)。

-2週~0週にかけては、両群ともサクビトリル-バルサルタン 49/51 mmHgを1日2回服用している。
0週から、バルサルタン160 mgを1日2回(赤線)、サクビトリル-バルサルタン97/103 mgを1日2回(青線)に割り付けている。
考えたこと
治療抵抗性高血圧であっても、ネプリライシン阻害薬によって降圧可能であることが示されました。
本研究では、対照群をバルサルタンに設定しているので、ARNI自体の降圧効果を見たわけではなく、ネプリライシン阻害作用による降圧効果を見たことになります。降圧機序が違う薬剤を使用しているので、当たり前と言えば当たり前ですが、4剤目、5剤目としても降圧効果が期待できることが分かりました。
また腎機能障害や高カリウム血症といった有害事象は、サクビトリル-バルサルタン群の方が少ない結果が得られており、比較的安全に使用可能と考えられます。
治療抵抗性高血圧であっても、ARNIの降圧効果が期待できる