心停止後の昏睡状態、抗けいれん薬の有益性は認められず
紹介する論文
心停止蘇生後に問題となるのが、低酸素脳症による後遺症がどの程度残るかです。低酸素脳症の患者では、「律動的で周期的な脳波」がよく出現することが知られ、予後不良の指標とされます。この予後不良の指標となる脳波を抗てんかん薬で抑制すれば、予後が改善できるのかは分かっていませんでした。
この律動的で周期的な脳波パターンを抑制するために、抗てんかん薬と鎮静薬を使用することで神経学的転帰を改善できるかを調査したTELSTAR試験(The Treatment of Electroencephalographic Status Epilepticus after Cardiopulmonary Resuscitation)を紹介します。
論文の内容
Patient
18歳以上で心停止後に昏睡状態(Glasgow Coma Scale 8点以下)、かつ律動的・周期的な脳波が出現している患者
Intervention(抗けいれん薬群)
抗けいれん薬(※)+標準治療(体温管理療法を含む)
※ 少なくとも48時間連続して、全ての律動的で周期的な脳波パターンを90%以上抑制することを目標に、下記の治療を行った(薬剤選択は担当医が行った)。
Step1:抗てんかん薬(フェニトイン)+ベンゾジアゼピン(ロラゼパムorミダゾラム)
Step2:抗てんかん薬(レベチラセタムorバルプロ酸)+麻酔薬(プロポフォール)
Step3:麻酔薬(チオペンタール)
Comparison(標準治療群)
標準治療(体温管理療法を含む)
ただし、人工呼吸管理、あるいは臨床的に明らかなミオクローヌスを抑制するための鎮静薬の投与は可
Outcome
2014年5月1日~2021年1月24日の間に2528人の連続脳波記録が行われて、354人に「律動的で周期的な脳波」パターンが観察された。そのうち172人が試験に組み込まれ、88人が抗けいれん薬群に、84人が標準治療群に割り付けられた。
患者の年齢の中央値は65歳であり、69%が男性だった。律動的で周期的な脳波は心停止後中央値35時間で始まった。62%にミオクローヌスが見られた。両群の80%に全身性周期性放電が見られ、10%に電気痙攣がみられた。
抗けいれん薬群では全例、標準治療群では8例が少なくとも1種類の抗けいれん薬を投与された。薬剤投与開始後、指標となる脳波の活動が完全に抑制されたのは、抗けいれん薬治療群88例中49例(56%)、標準治療群83例中2例(2%)だった。
心停止3か月後、抗けいれん薬群では88例中79例(90%)、標準治療群84例中77例(92%)がCPCスコア3,4,5で定義される不良な転帰を示した(差:2%、95% CI, -7~11%; p=0.68)。3か月後のCPCスコアが5、つまり死亡したのは抗けいれん薬群では88例中70例(80%)、標準治療群84例中69例(82%)だった(差:3%、95%CI、-9〜14)。

全症例における重篤な有害事象の発生率は172例中145例(84%)であり、重篤な有害事象の発生率および種類は2つの試験群で同様だった。
考えたこと
心停止後の昏睡患者を対象に、脳波を監視し抗けいれん薬を使用しても、3か月後の神経学的予後は改善されませんでした。
この研究のlimitationで、標準治療群でも抗けいれん薬を使用された患者がいるため、臨床転帰に差がつかなかった可能性があることが挙げられています。しかし、標準治療群でも鎮静薬を使わざるを得ない状況はあるはずです。積極的に抗けいれん薬を使用しても、統計学的な有意差が付くほどは神経学的予後が改善しなかったという解釈が妥当かと思います。
神経学的後遺症を軽減されるための治療として、体温管理療法がガイドラインで勧められています。現時点で、心停止蘇生後に神経学的予後を改善させることが証明されているのは体温管理療法だけです。体温管理療法は、低体温療法と平温療法の2つに分けられ、どちらが優れているのかはいまだに議論になっています。
>>心停止蘇生後の体温管理療法、低体温療法でなくても平温療法で十分
>>低体温療法、脳障害の重症度によっては平温療法よりも優れる可能性
いずれの体温管理を選択するにしても、目標体温を維持することしか、蘇生後に神経学的予後を改善させる積極的な治療はなさそうです。
心停止後の昏睡状態、抗けいれん薬の有益性は認められず