【高血圧】降圧薬の内服タイミング、朝と夕で効果は変わらない
紹介する論文
血圧を適切にコントロールすることで、心血管疾患発症を予防できます。多くの場合、血圧は夜間の睡眠中に低下し、朝方にかけて上昇します。降圧薬を夜に投与することで、朝の血圧上昇を抑え、心血管イベントを減らす可能性があります。
朝と夜、どちらに降圧薬を内服すべきかを検証した大規模試験のひとつに、Hygia Chronotherapy試験があります。
この試験では、起床時に全ての降圧薬を内服する群、就寝前に1剤以上の降圧薬を内服する群、どちらの心血管イベントが少ないか検証されました。両群には約9500人ずつが割り当てられています。その結果、各種因子で調整した心血管イベント発生のハザード比は0.55 (95% CI 0.50-0.61)と、就寝前に内服する群で有意に減少していました。
ところが、このHygia Chronotherapy試験、適切な無作為化が行われていなかったのではないかという疑念が生じています。
そのため、「降圧薬は夜に内服したほうが良い」という知見は、まだ確立したものではありません。
このような変遷もあり、降圧薬の内服タイミングは朝と夜、どちらが良いかがイギリスで検証されました。今回は、英国で行われたTIME試験(The Treatment in Morning versus Evening study)の結果を紹介します。
論文の内容
Patient
18歳以上で少なくとも1種類の降圧薬を内服中の高血圧患者
※勤務シフトがオーバーナイトの場合、降圧薬の内服が1日1回ではない場合は除外
Intervention(夜内服群)
すべての降圧薬を夜(20時~0時)に内服
※利尿薬を使用している場合は、他の薬と同様に夜内服するよう指示された。もし夜間尿が続く場合は利尿薬のみを18時に内服するよう指示した。それでも夜間尿が持続する際は、利尿薬のみ朝に内服するよう指示された。
Comparison(朝内服群)
すべての降圧薬を朝(6時~10時)に内服
Outcome
患者背景
2011年12月17日~2018年6月5日にあけて21,104人がランダム化された。最終的に夜内服群に10,503人、朝内服群に10,601人が割り付けられた。
両群の患者背景のバランスは取れていた。対象者の平均年齢は65.1歳(SD 9.3歳)、8,968人(42.5%)が女性、19,101人(90.5%)が白人だった。過去に喫煙歴があるのは8007人(39.4%)、以前に喫煙歴があるのは885人(4.3%)だった。収縮期血圧の平均値は135 mmHg(SD 13 mmHg)、拡張期血圧の平均値は79 mmHg(SD 9 mmHg)だった。BMIの平均値は28.4だった。内服中の降圧薬の平均は1.5剤で、85.4%の患者が降圧薬を朝に内服していた。2725人(12.9%)に心血管疾患の既往があった。
フォローアップ期間の中央値は5.2年(IQR 4.9-5.7年)だった。14,629人(69.3%)の参加者が、薬を割り当てられた時間に内服したと報告した。一方、6,475人(30.7%)が割りつけられた内服時間を守れなかったと答えた。内服時間を守れなかったという最初の報告は平均1.7年(SD 1.6年)だった。割り当てられた時間に飲めなかったという報告は、夜内服群で多かった(4091 [39.0%] vs 2384 [22.5%]、p<0.0001)。また、617名(3.2%)の参加者が利尿剤の内服時間帯を変更する必要があったと回答した(夜内服群546名[5.2%]、朝内服群71名[0.7%]、p<0.0001)。
主要転帰
心血管死と非致死性心筋梗塞・非致死性脳梗塞による入院の複合は、夜内服群の362人(3.4%)(100患者年当たり0.69イベント[95%CI 0.62-0.76])と朝内服群の390人(3.7%)(100患者年当たり0.72イベント[95%CI 0.65-0.79]、未調整ハザード比0.95[95%CI 0.83-1.10]、p=0.53)だった。

朝内服群が赤線、夕内服群が青線。
副次転帰
非致死性心筋梗塞による入院、非致死性脳梗塞による入院、心血管死、全死亡、うっ血性心不全による入院と死亡にも2群間で差がなかった。
安全性
夜内服群は、朝内服群よりも転倒を報告する割合がわずかに低かった(9574人中2016人[21.1%]vs 10054人中2235人[22.2%]、p=0.048)。
骨折なし・入院を伴わない骨折・入院を要する骨折は、夜内服と朝内服で差がなかった。
入院が必要な緑内障は、夜内服群と朝内服群で差がなかった(44人 [0.4%] vs 60人 [0.6%]、p=0.15)。
試験中に1つ以上の有害事象を報告した参加者は、夜内服群の方が朝内服群よりも少なかった(7268人[69.2%]vs 7474人[70.5%]、p=0.041)
めまいやふらつき、胃のむかつきや消化不良、下痢、筋肉痛は、いずれも夜間投与より朝方投与の方が多く報告された。一方、日中または夜間にトイレに行く回数が多いことや、その他の特定されない有害事象は、夜内服群の方が多く報告された。

考えたこと
降圧薬は夜に内服しても、朝内服と比較して心血管イベントの予防効果は変わらないことがTIME試験で示されました。また安全性についても、大きな差はありませんでした。
Hygia Chronotherapy試験の心血管イベントのハザード比は0.55でした。降圧薬を夕に内服するだけで、イベントリスクが45%も低下するとは、信じがたい結果です。今回のTIME試験の方が、信憑性がありそうです。TIME試験の結果からは、降圧薬は朝夕どちらに内服しても良いと言えます。内服タイミングは、各患者さんの状況に応じて使い分けるのが良いのでしょう。
夕内服が望ましい場面としては、α遮断薬を使用している(日中活動時の起立性低血圧を避けるため)、早朝の血圧が高い(夕に内服した薬の血中濃度が朝に高くなるため)などでしょうか。逆に朝内服が望ましいのは、利尿作用がある降圧薬を使用する場合(夜間の多尿を避けるため)が想定されます。ただ最も大切なのは、服薬アドヒアランスを保つために、内服を最も忘れにくい時間に飲んでもらうことだと思います。
TIME試験は、夜間高血圧や血圧の日内変動を踏まえた試験ではありません。そのため、夜間に血圧が高い、あるいは血圧の日内変動が大きい集団での最適な投与時間を決定するには、また別の研究が必要です。
降圧薬、朝と夕どちらに飲んでも心血管イベント予防効果は変わらない