安定狭心症の確率が中等度なら、冠動脈造影よりもまずは冠動脈CT
紹介する論文
安定狭心症を疑う場合、診断のためにどの検査を選択しますか?
検査の選択肢としては、運動負荷心電図、負荷心筋シンチグラフィ、負荷心エコー、冠動脈CT、冠動脈MRA、冠動脈造影あたりが一般的かと思います。現在の日本循環器学会のガイドラインでは、低リスクだった場合、検査を行うとすれば運動負荷心電図、または冠動脈カルシウムスキャンを行うことになっています。もし中等度リスク以上だった場合は、冠動脈CTや負荷イメージング(負荷心筋シンチグラフィ、負荷心エコーなど)を行う流れになっています。

安定冠動脈疾患の診断と治療」より引用
今回紹介するのは、中等度に安定狭心症を疑う時の検査選択に関する研究です。まずは冠動脈CTを行うのが良いか、それともいきなり侵襲的な冠動脈造影を行うのがよいのか検証した、DISCHARGE試験を紹介します。
DISCHARGE Trial Group. CT or Invasive Coronary Angiography in Stable Chest Pain. N Engl J Med. 2022
論文の内容
Patient
30歳以上で、安定した胸痛があり、閉塞性CADの検査前確率が中程度(10~60%)※のため、欧州16カ国26施設のいずれかに冠動脈造影目的に紹介された患者
除外基準:血液透析中、洞調律でない、妊娠
※検査前確率は、年齢、性別、症状から下の表を基に算出

症状のタイプはTypical angina, atypical angina, nonanginal chest pain/discomfort, and other chest pain/discomfortに分類された。①胸骨裏の不快感、②労作による増悪、③安静またはニトログリセリンによる速やかな(30秒~10分以内)改善、の3つでいずれの症状に分類するか決定した。3つすべて満たす場合はTypical angina、2つ満たす場合はatypical angina、1つ満たす場合はnonanginal chest pain/discomfort、いずれも満たさない場合はother chest pain/discomfortとした。
Intervention(冠動脈CT群)
初回の検査として冠動脈CTを行う
Comparison(冠動脈造影群)
初回の検査として冠動脈造影を行う
Outcome
1833人が冠動脈CT群に、1834人が冠動脈造影群に無作為に割り付けられた。フォローアップの中央値は3.5年(IQR:2.9~4.2)だった。平均年齢は60.1歳で、56.2%は女性だった。ベースライン時の心血管治療薬の使用状況、狭心症状の種類などは両群間で似通っていた。
冠動脈に器質的な狭窄があったのは、両群とも25.7%だった。CT群では404例が最終的に冠動脈造影が行われ、293例で狭窄を認めた。
主要複合評価項目
主要有害心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)は、冠動脈CT群38例(2.1%)、冠動脈造影群52例(3.0%)で発生した(ハザード比0.70; 95%CI, 0.46~1.07; P=0.10)。

副次評価項目
合併症
主要な手技関連合併症が42例に発生した。
そのうち37例は冠動脈造影に関連したものだった(冠動脈CT群7例、冠動脈造影群30例)。侵襲的な冠動脈造影は、冠動脈CT群で22.3%に行われたのに対し、冠動脈造影群では97.4%だった。そのため、冠動脈CT群で手技関連の主要合併症が少なかった(ハザード比 0.26; 95% CI, 0.13~0.55)。
冠動脈造影に関連しない重大な合併症の5例は、1例はCTに、4例は冠動脈バイパス術に関連していた。
追加検査
追跡期間中、冠動脈CT群でより多くの患者が追加の機能検査を受けた(336人[18.6%] vs. 227人[12.9%]; ハザード比 1.49; 95%CI, 1.26~1.76)。
治療内容
冠動脈血行再建の頻度は、冠動脈CT群のほうが低かった(256人[14.2%]対315人[18.0%]; ハザード比, 0.76; 95%CI, 0.65~0.90)。薬物療法は両群で大きな差はなかった。
狭心症状
追跡期間の最後の4週間において、狭心症は10%未満の患者から報告され、その発生率は2群間で大きな差はなかった。QOLの評価も両群で同様であった。
考えたこと
安定狭心症の検査前確率が中等度の場合、冠動脈造影と冠動脈CTを比較すると、主要心血管イベントは同程度であることが示されました。また冠動脈CTを先行させることで、侵襲的な冠動脈造影を行ったのは22%の症例で済み、手技関連イベントが減りました。結論としては、侵襲的な冠動脈造影造影よりも冠動脈CTを先行させることが安全そうです。
安定狭心症患者の検査については、今回のDISCHARGE試験以外にもいくつかの試験が行われています。PROMISE試験(Prospective Multicenter Imaging Study for Evaluation of Chest Pain)では、心筋虚血評価(運動負荷心電図、負荷心筋シンチグラフィ、負荷心エコー)と比較して、冠動脈CTを行った場合の25ヵ月後の心血管予後は同等と評価されました。また、SCOT-HEART 試験(Scottish Computed Tomography of the Heart) では、機能的な心筋虚血をする検査に加えて、CTを行うことが評価されました。CTを加えることで、4.8年後の冠動脈疾患による死亡または非致死的心筋梗塞と定義される主要心血管イベントの発生率が低下することが示されました。
検査前確率が中等度の場合は、個々の症例に合わせて適切な検査を選択することになると思います。ただ今回のDISCHARGE試験の結果からは、いきなり冠動脈造影を選択するのは避けたいところです。冠動脈造影の前に、冠動脈CTや機能的心筋虚血を評価できる検査(運動負荷心電図、負荷心筋シンチグラフィ、負荷心エコー)を実施するのが良さそうです。
今回は安定狭心症が中等度の確率で疑われる際に、冠動脈CTが有益か検証した研究を紹介しました。一方、急性冠症候群が疑われる場合に、まず冠動脈CTを行うのが良いのか、あるいは冠動脈造影を行うのがよいのかは、下記の記事でも紹介しています。もしよろしければ、こちらも参考にして下さい。
>>中等度リスクの急性冠症候群疑い、早期の冠動脈CT施行は有益?
安定狭心症の検査前確率が中等度の場合、いきなり冠動脈造影は避けたほうが良さそう。