心不全合併の心房細動、アブレーションのレートコントロールへの優越性は示せず
紹介する論文
心房細動には心不全をよく合併します。また逆に、心不全には高頻度で心房細動を合併しています。
心不全を合併した心房細動に対する治療方針は、リズムコントロールとレートコントロールの2つがあります。リズムコントロールをする場合、抗不整脈薬とカテーテルアブレーションという選択肢があります。一方、レートコントロールをする場合、まずは薬物治療です。侵襲は大きくなりますが、カテーテルアブレーションで房室ブロックを作成し、ペースメーカー(CRTを含む)を植え込むという方法もあります。
心不全を合併した心房細動には、多くの治療選択肢があり、研究が盛んに行われています。
抗不整脈薬によるリズムコントロールは、レートコントロールよりも優れていないことが示されています。それでは カテーテルアブレーションによるリズムコントロールとレートコントロールはどちらが優れているでしょうか?
この問題が、RAFT-AF試験(※)で検証されました。その結果がCirculationに掲載されたので、紹介します。
(※) The Rhythm Control – Catheter Ablation With or Without Anti-arrhythmic Drug Control of Maintaining Sinus Rhythm Versus Rate Control With Medical Therapy and/or Atrio-ventricular Junction Ablation and Pacemaker Treatment for Atrial Fibrillation
論文の内容
Patient
発作性・持続性心房細動(※)と、NYHA Ⅱ~Ⅲの心不全、NT-pro BNPの上昇があり、至適薬物療法がなされている患者。
(※) 発作性心房細動は少なくとも1回は6時間以上持続し6か月で4回以上あるもの、持続性心房細動は3年以内のものを組み入れ。
Intervention(アブレーション群)
抗不整脈薬は中止の上、カテーテルアブレーション(※)を行った。初回のカテーテルアブレーション後は、抗不整脈薬を4~6週間使用可能。アブレーションを2回行った後は、補助的治療として抗不整脈薬の使用が可能。
(※)肺静脈隔離術は必須。持続性心房細動に対して、CFAE、左房天蓋部ライン、僧帽弁輪峡部ライン、左房後壁へのアブレーションを加えることは可。
Comparison(レートコントロール群)
安静時心拍数80/分未満、6分間歩行での心拍数110/分未満を目標に、β遮断薬・カルシウム拮抗薬・ジギタリスを使用した。目標に到達できない場合、アブレーションによる房室ブロック作成術を行い、心臓再同期療法(CRT)を行った。
Outcome
214人がアブレーション群、197人がレートコントロール群に割り付けられた。観察期間の中央値は37.4ヵ月だった。アブレーション群では205人が最終的にカテーテルアブレーションを受けた。128人(62.4%)が1回、69人(33.7%)が2回、8人(3.9%)が3回のアブレーションを受けていた。レートコントロール群では、60人でアブレーションによる房室ブロック作成術が行われ、心臓再同期療法(CRT)を行った。
洞調律を維持できていたのは、アブレーション群で12か月後は86.5%、24か月後は85.6%だった。一方、レートコントロール群では10.1%と12.9%だった。
安静時心拍数はレートコントロール群で、12か月後は74.3±11.8/分、24か月後は74.7±11.8/分だった。6分間歩行時の心拍数は、12か月後は88.7±15.2/分、24か月後は87.4±14.4/分だった。
主要評価項目
全死亡と心不全イベント(※)の複合エンドポイントは、アブレーション群で214人中50例(23.4%)、レートコントロール群で197人中64例(32.5%)だった(ハザード比 0.71, 95%CI, 0.49-1.03; P=0.066)。
(※)心不全イベントとは、24時間以上の入院、静注利尿薬を要する心不全増悪、慢性心不全に対する治療強化のいずれか。

青線がアブレーション群、赤線がレートコントロール群。
副次評価項目
全死亡はアブレーション群で29例(13.6%)、レートコントロール群で34例(17.3%)だった(ハザード比 0.79, 95%CI, 0.48-1.30; P=0.349)。
心不全イベントはアブレーション群で48例(24.4%)、レートコントロール群で38例(17.8%)だった(ハザード比 0.71, 95%CI, 0.47-1.09; P=0.120)。
LVEFの24か月での上昇幅はアブレーション群で10.1±1.2%と、レートコントロール群の3.8±1.2%よりも有意に大きかった。
NT-proBNPは、24か月間でアブレーション群は-77.1%(95%CI, -86.3 to -67.9)と、レートコントロール群の-39.2%(95%CI, -50.9 to -27.5)よりも有意に低下していた。
有害事象
重篤な有害事象が生じたのはアブレーション群で102例(47.7%)、レートコントロール群で99例(50.3%)だった。
総入院数はアブレーション群で261回(平均2.6回、95%CI, 2.1-3.0)で、レートコントロール群で233回(平均2.4回、95%CI, 2.0-2.7)だった。
アブレーション関連の有害事象は、死亡につながった心房食道瘻が1例、心嚢穿刺を要する心膜液貯留が6例、大出血8例、小出血5例だった。
レートコントロール群では、徐脈が4例、アミオダロンに起因する中毒が1例だった。
脳卒中は各群とも5例ずつに生じた。
考えたこと
心不全合併の心房細動において、カテーテルアブレーションによるリズムコントロールの、レートコントロールに対する優越性は示されませんでした。
心不全合併の心房細動の治療に関し、死亡や心不全入院の発生率を検討した臨床試験としては、今回のRAFT-AF試験以外にもCASTLE-AF試験があります。この試験では、カテーテルアブレーションと薬物療法が比較されました。試験プロトコールでは、薬物療法群にはリズムコントロールが推奨されていました(しかし、実際には60~70%がレートコントロールをされていました)。そのため、CASTLE-AF試験は「カテーテルアブレーションと薬物療法のどちらが優れているかを比較した試験」と言えます。
一方、今回のRATF-AF試験では、カテーテルアブレーションによるリズムコントロール、及びレートコントロールの2群に分けて比較検討されています。レートコントロールが薬物療法で上手くいかない場合、カテーテルアブレーションによる房室ブロック作成と心室再同期療法(CRT)を併用しています。そのため、RAFT-AF試験は「カテーテルアブレーションによるリズムコントロールとレートコントロールのどちらが優れているかを比較した試験」と言えそうです。
心不全合併の心房細動へのカテーテルアブレーションによるリズムコントロール、レートコントロールへの優越性は示されず